かつては、中山服が中国の国民服だと世界的に認知されていた。東華大学服装学院の卞向陽教授は、中山服は西洋化した中国服であり、ネクタイ不要で、服の中に着るシャツに細かい決まりごとがないなど、背広よりも簡便なのが特徴だと解説する。つまり見た目も良く、実用的で、お金がかからない機能的な制服なのだ。辛亥革命後に公布された『服制条例』では、これを中華民国の礼服と規定していない。しかし当時、高い地位にある政治家や国家公務員の間でこれを着ることが大流行した。
卞向陽教授によれば、中山服の浸透は当時の経済に少なからず影響を与えていたという。国産の素材を使う規定があったことから、当時の紡績産業の発展に貢献したというのである。現在でも、正式な場面で中山服を着る人が多い。
しかし中山服は国民服の候補の一つでしかない。多くの中国女性の美しさを引き出すチャイナドレスは、1929年の『民国服制条例』で国民服として選ばれた。同時に選ばれたものに、ツーピース型のものがある。馬褂と呼ばれる古来の服が変化してできた唐装を、当時多くの人々が着ていたのである。それ以外にも現在、いくつかの地方の成人式や卒業式で、漢服を着る人が見られる。
このように色々あるわけだが、しかし、もし国民服を決めるとするならば、だれがそれを選ぶのだろうか。それは多くの人が感じる疑問だろう。包銘新教授は、既存のものから中国の国民服を選ぶことはできないと考える。「中国の国民服は系列的で一貫性のある服装であるべきだ。デザイン、図案、色などで明確な中国的要素を表現すると同時に、異なる場面、時間、対象によって分類して着られるものであるべきだ」。彼は率直に、誰にとっても満足できるものを選ぶのは困難だと言う。個性をとりわけ重視するようになった現代の中国では、国民服の普及のために必ず民族の多様性や各個人の個性というものを十分考慮すべきだが、伝統と流行、民族特色と国際性の間にある矛盾を解決するのは難しいと指摘する。
中国の服装芸術デザイン学科の修士であり博士の劉暁剛氏も、「国民服は象徴性のある服飾であり、そのようなものをデザインするのは困難だ」と語る。彼の考えでは、もし国民服をデザインするならば、まず民衆の大きな支持と推薦のあるものでなければならない。民意に広く耳を傾け、その基盤の上で伝統と民族文化のなかから普遍的な要素を取り出し、国民服に取り入れるべきだとしている。国民服は一貫した服飾概念が必要であり、異なる儀礼の場や気候の変化に適応したものである必要があるし、国民服としての規範を体現しているものであり、さらには心地よい服である必要がある。劉暁剛氏の考えでは、デザインする際には伝統文化を尊重し、民族的な美意識を体現すべきだが、同時に現代性や国際性を取り入れる必要もある。加えて大衆が着たくなるような要素も入れ込むことができなければ、広く受け入れられる国民服はできないとしている。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2011年10月31日