牽牛と織女の伝説は、誰でも知っている。古代に多くの詩人がこの物語をテーマにして、たくさんの詩を詠じている。いちばん古く、いちばん有名なのは、東漢年末の『古詩十九首』の中の『迢々たり牽牛星』である。
迢々牽牛星 迢々たり牽牛星
皎々河漢女 皎々たり河漢の女
繊々擢素手 繊々たる素手をもって
扎々弄機杼 扎々と機杼を弄ぶ
終日不成章 終日織りて章を成さず
泣涕零如雨 泣涕零ちること雨の如し
河漢清且浅 河漢清くかつ浅し
相去復幾許 相い去ること復た幾許ぞ
盈々一水間 盈々として一水を間て
脈々不得語 脈々語ることを得ず
(大意――遥かな天の河の南岸に牽牛星がいて、北岸には皎々と輝く織女星がいた。織女は白魚のような美しい両手で休まずにさっさっと布を織っていたが、一日じゅうかかっても、心は千々乱れているため、反物を織り上げることができなかった。牽牛を思う涙は雨のようにしたたり落ちた。天の河の水は清く浅いが、どれだけ遠く離れていることか。ただ一つの河を隔てているだけなのに、どんなに情をこめて遥かに牽牛を眺めても、したしく語り合うことはできいのだ)
これは詩人が秋の夜にはるかに牽牛、織女を眺めて詠じた即興詩である。詩の中に系統的に「迢迢」「皎皎」「繊繊」「扎扎」「盈盈」「脈脈」などの六つの畳語を用い、牛郎と織女の愛情をうたいあげ、夫婦の別離の悲しみと恨みをあらわしている。この詩は意味が深く、味わいがあり、行間ににじみでた悲しみは人の心を動かさずにはおかない。