2020年に入って早々、北京市では今年の初雪が降った。そしてこの雪とともに、「依頼人に代わって雪の上に字を書く」というビジネスも登場し、人気を集めた。
ここ数年、「代行で雪に字を書く」、「代行で太る」、「代行でミルクティを飲む」、「代行でジムに通う」、「代行で猫や犬をかわいがる」など、多種多様な「代行経済」が急速に成長し、中国人の精神的消費の発展がうかがえる。
「代行で雪に字を書く」がビジネスに
北方に降った雪を、南方の人は画面越しに眺めることしかできない。そこで生まれたのが、「たったの5元(約79.5円)で雪の上に字を書きます」とネットで請け負うサービスだ。書く内容は定型パターンもあれば、依頼者が自分で考えたものでもいい。多いのは名前と時間で、祝福や告白のメッセージもよくあるという。
「南方の青年たちのために雪の上に字を書き、雪玉を作り、雪合戦をし、雪だるまを作り、告白の手伝いをする」というユニークなサービスは、心理的な穴埋めであり、南方の人々の雪への憧れを満たしてくれる。なんと言っても、初めて雪を見る多くの南方人にとって、雪の上に転がって自分のシルエットを雪の上に残し、雪にすっぽり包まれる感覚は、ぜひとも体験してみたいことなのだ。その新鮮な感じは、安いコストで実現できる体験型消費だといえるだろう。
従来の商取引とは異なり、雪の上に字を書くことに最終的に何か実体があるわけではなく、しかも一見すると営利目的ではないようにもみえる。サービス提供者の多くも形式的に料金を徴収しているにすぎない。ネットユーザーの中には、「北の人は、雪を見るよりも、南の人が雪を見ている様子を見るほうが面白いんじゃない?」とツッコミを入れる人もいる。そのため、こうしたビジネスは北方にいるサービス提供者と南方にいる買い手の双方向交流と言ったほうが実態に近く、双方は交流する中で地域への共感を深める。ビジネスであると同時に、インターネットを利用したソーシャルな活動だともいえる。
「代行経済」で、怠惰も一種の「芸術的行為」に
「代行経済」の登場からしばらく経った今では、雪に関連したサービスは「字を書く」ほかにもたくさんある。ここ数年、ネットユーザーの中には「代行で雪だるまを作る」、「雪合戦のライブ中継をする」といったサービスを提供する人が出てきた。「代行で太る」、「代行でミルクティを飲む」、「代行でジムに通う」、「代行で猫や犬をかわいがる」など多様な「代行経済」も登場し、ネット時代を背景とした消費ニーズの多様化と個性化を映し出している。閑魚(阿里巴巴<アリババ>傘下の不用品取引プラットフォーム)上では、900万人の若者が誰かの代わりに何かをすることを楽しんでいると同時に、800万人の若者が誰かに自分の代わりに何かをやってもらうことの楽しさを味わっている。
「代理経済」が映し出す精神的消費の発展
代行経済には2種類ある。1つは物質的なニーズを満たすサービスで、即時配達や海外での代理購入などがこれに当たる。もう1つは精神的なニーズを満たすサービスで、代行して飲食をする、代行して会話をするなどだ。代行で雪の上に字を書くのは精神的消費であり、より厳密にいえば、「オンラインでの代行によって得られる精神的慰め」だと言っていいだろう。似たようなものに、今年の七夕に流行った「七夕ガエル」や、「働いている人がモーニングコールサービスを頼む」などがあり、これらはいずれも第三者に自分に代わって気持ちを表現してもらい、友人を慰めたり自分の心を奮い立たせたりするものだ。「今夜は月がきれいですね」という愛の告白に代表されるような伝統的な表現スタイルは、婉曲さや詩情を大切にする。一方、代行で雪に字を書くことは「オンラインの代行よって得られる精神的慰め」によって、ストレートに伝えるという粗野なやり方を回避しながら、確実である上に新鮮な感じもあり、社会への帰属意識や人とつながりたい気持ちも満たすことができる。
代行で雪に字を書くといった精神的消費の発展が映し出すのは、消費の高度化だ。人々はもはや物質的に満たされるだけでは満足しなくなり、精神的・文化的な体験も重視するようになった。これは社会の細分化された分業システムの進歩であり、暮らしにロマンの彩りを添えることでもある。
力強い活力と強靱性を見せる「代行経済」