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匠(タクミ)シンドローム
発信時間: 2010-02-11 | チャイナネット

もうひとつ面白い議論は、一般消費者にかかわることでいえば、ユーザーのマナーが悪いと、サービスは多くのユーザーの平均的なレベルに決定されるということですね。たとえば、スーパーで店員さんがぺちゃくちゃしゃべっていても、それは、中国のユーザー(お客さん)の多くがそれを納得できるレベルだから、よいということで、中国内だけでみれば、他のスーパーも、どこのスーパーもそういった、ぺちゃくちゃ店員さんがいるわけです。これを、日本のサービスの質にあてはめて、サービスが悪いというのは間違いであって、もし、日本のようなきっちりとした慎ましやかなサービスを展開してしまったら、スーパーを経営する企業の人的資源管理において中国人スタッフが需要できないほどの厳しさ(絶対にぺちゃくちゃしゃべってはいけない等)でありましょうし、結果としてそうした厳しいルールを徹底させるために比較的高額給与を約束しなければならないかもしれず、また離職率が高くなってしまうかもしれず、そのコストが商品価格などに転嫁されてしまい、むしろ、そのスーパーは他店に比べて競争力がなくなってしまう可能性があります。 ですから、ユーザーのマナーが悪い中国では、サービスの質は、それを提供する企業の「妥協」ではなく、「最適な行動」として、日本のそれよりも低いレベルで提供されることになります。多くの日本人の方が、こうした企業の行動をみて「中国企業はサービスが悪い」「だから、日本企業のノウハウを入れればもっと効率的に云々・・・」などということがありますが、それは間違っていて、単に中国ユーザーのマナーにあわせた最適なレベルであるわけです。 もちろん、同じ映画館、スーパー、美容室といったサービス産業でも、低級サービス、標準サービス、高級サービスといった市場ポジショニングはあると思いますが、ざっくりと、同位置の各ポジショニングを日本と中国の企業で比較すれば、「中国企業はサービスが悪い」ということになるかと思います(ちなみにですが、中国でも高級サービスを提供するポジションでは、私語など一切なく、丁寧な作法で、かなり徹底した高度なサービスが提供されます。)。

「中国人はマナーが悪い。」それには多くの議論がありますが、しかし、それにともなった成功している中国内の企業行動は、実は「サービスが悪い」わけではなくて、「怠惰」なのでも、「妥協」なのでもなくて、中国の市場環境に最適に適合させた結果なんですね。ここを間違えると、日本企業は中国内市場では競争に勝てません。 日本企業が御旗とする「いいものは必ず売れる」については、モノづくりには当てはまりやすいですが、サービスに付いては、「現地化」の議論も踏まえて、もうすこし別の視点から捉え直す必要があるといえますね。

(中川幸司 アジア経営戦略研究所上席コンサルティング研究員)

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「チャイナネット」 2010年2月11日

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