菅直人首相は、次期駐中国大使に伊藤忠商事の丹羽宇一郎相談役を起用する方針を固めた。民間からの駐中国大使の起用は、1972年の国交正常化後はじめてとなる。しかし、この方針は菅内閣の新構想でなく、鳩山内閣の意思を引き継いだ構想で、民主党の人事入れ替えの戦略の一つと言える。
これまで、駐中国大使には外務省出身者が起用されるのがほとんどだった。現在の宮本雄二大使は外務省の中国問題専門家で、中国に精通する大使が3人続いた。宮本大使の後、外務省には中国に精通する人材はいないと言える。
民主党が政権を握ってから、民間人を大使に起用する考えが提起されたが、民間出身の大使はまだ一部の小国にしか派遣されておらず、中国のような主要国に民間人が起用されたことはまだない。これが実現すれば、民主党のオープンな外交は象徴的なシンボルを獲得できるだろう。
丹羽宇一郎氏の経歴を見てみると、日本は対中外交において変化に重点を置いていることがわかる。丹羽氏は伊藤忠商事の社長、会長を経て現在は相談役を務め、米国に長期滞在したこともあり、投資や金融分野に取り組んできた。2010年に北京市市長国際企業家顧問会議顧問を務めるなど、中国と深い関わりがある。伊藤忠商事は日本の3大貿易会社の一つで、中国で幅広い業務と投資を行い、上海万博の特許商品の代行と生産も行う。丹羽氏は以前、「中国と米国は日本企業が争奪しなければならない2つの市場」と述べており、この考えと民主党の外交方針は一致している。鳩山前首相は「日米関係、日中関係、日韓関係をしっかりやってほしい」と菅首相に伝えた。菅首相による駐中国大使の人選は鳩山内閣の意思を引き継いだもので、前政権の政策を継続している。菅首相は鳩山前首相のすぐに中国を訪問するという約束を受け継がなかったが、駐中国大使の起用では誠意を見せている。
予想外の出来事でもない限り、丹羽氏は正式に駐中国大使に就任することになる。実際、丹羽氏は中国の政界や商業界に深い人脈があり、外交に大きな助けとなるだろう。また、米国での豊富なキャリアも中日米3国の交流と安定にプラスになると考えられる。特に経済、貿易、文化交流、民間交流などの面で、日本は中国に対するビザ発給制限を緩和し、中国の学生や観光客を多く引き込もうと努めている。丹羽氏が駐中国大使に就任すれば、更なる効果が期待できる。
商業界のキャリアに対し、外交の経験がないのは丹羽氏の弱点だ。しかし、中日間の未解決問題は以前と異なり、今では歴史問題でなく、東中国海のガス田開発、貿易、食品安全、環境保護などが主な課題となっている。丹羽氏に外交の経験がないのは不利になるとも限らない。丹羽氏は伊藤忠商事の経営において、中国での投資や提携の経験を積み重ねており、それが日本の対中外交に新たな局面を切り開くきっかけとなるかもしれない。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2010年6月10日