林国本
旧正月の帰省を終えてそろそろウサギ年の初仕事が始まるという時に、改革、開放以来急速な成長をとげてきた中国沿海部の一部地域では、故郷からまた帰ってくるものと思っていた従業員のかなりの人たちがもどってくる動きが見られないので、企業側は大きな戸惑いをあらわにしている。では、なぜ、こうしたことが起こったのか。一言でいうならば、これは近代化の発展による必然の趨勢である。
沿海部から内陸部への一部産業のシフトの結果、内陸部各地域の労働力主管部門は、沿海部で十数年経験を積んできた人たちをなるべく地元に残しておくために力を入れ、また、沿海部から帰ってきた人たちも、大して変わらない給料なら、生活費の安い地元に残っていた方がましだとの合理的な計算から地元に残って就職する道を選ぶことになった。地元に残った人たちの話では、沿海部で住むところを確保するための支出もばかにならないし、物価も高いので、細かく計算してみると、地元に残った方がメリットがある、と判断したらしい。また、子供の世話もできるし、年老いた両親の面倒を見ることも可能ということで一石三鳥かもしれないということである。
こうなると沿海部の企業などは、泡を食うことになり、一部では賃上げや福利施設の増加などの手を打ち始めている。気の早い人たちの中には、最悪の場合、東南アジアあたりから人を集めてくることを考えているものもいる。しかし、私見であるが、ヨーロッパのいわゆる先進国では、こうした「移民」労働者を受け入れているケースもあるが、自国の失業率が高止まりしている昨今のこと、これはツナ渡りにひとしいやり方である。ましてや、中国のような発展途上国ではまだ大々的に実行できそうにないことである。中国自体、漸進的な都市化、農村における余剰労働力の移転という課題をかかえているこの時にこうした手を打つことは考えものだ。解決策はまだ沿海部にあまり人を送り出していない地域でさらに労働力を発掘し、そのトレーニングを急ぐか、一部企業の内陸部へのシフトをさらに急ぐとともに、沿海部ではさらにハイレベルの産業の創出に力を入れることだ。