林国本
08北京オリンピックで総合的にすばらしい成績を獲得した中国の選手たちは、そろそろロンドン・オリンピックへの準備に取り掛かる時期にさしかかっているようだ。
さいきん、中国女子バレーボールチームの監督の入れ換えが公表された。元中国上海男子バレーバール・チームの名セッターであった蔡斌さんが前任の陳忠和さんを継ぐ形で最終的に新監督就任が決定した。前任の陳忠和さんも候補の一人であったが、このところ世界の強豪チームがひしめく女子バレーボール界ではそれぞれの国がいろいろな手を打って強化に力をいれている現状をみて、中国チームももたもたしていられないことは明らかだ。関係主管部門がこの決定を行なったのは、中・長期的諸条件を考慮してのことと思うが、また、大きな賭けでもあろう。よく言われているように「名選手必ずしも名監督にあらず」で、蔡監督にとっても、新たな挑戦となるはずである。前任の陳忠和さんも、世界の強豪のひしめく中でよく頑張ったと言える。試合に勝って、バレーボール主管部門の人たちと男泣きに泣いたことを聞いて、筆者も感動し、また、その気持ちはよくわかった。陳さんには名選手というキャリアはなかったが、バレーボールの世界で、ただバレーボールが好き好きでたまらないという気持ちで、いろいろと研鑽を重ねてきた人で、監督として、とくに女子バレーボールチームをここまで引っ張ってきたと高く評価されている。陳さんの年齢は50代初期、蔡さんは40代初期なので、若返りをはかったということも考えられるが、バレーボールという長丁場の激戦の舞台で、さらに5年も10年も緊張を強いるのは陳さんにとっても、冒険になるに違いないので、この辺で交代することも悪くはなかろう。
蔡さんは就任早々、戦術面での革新案をぶち上げているが、まさに名セッターの面目躍如たるものがあるが、しかし、これも次の二つの条件が揃わないと結実するのはむずかしい。一、この新戦術を実施するためのメンバーがそろうかどうか、ということ。全国各省のチームから移籍してくる選手たちも、長期にわたるトレーニングによる「すり合わせ」とパターン化の必要があり、ロンドン・オリンピックの前の選手権大会で予行演習をするとしても、それはただちにライバル・チームに読まれてしまい、ロンドン・オリンピックではライバルに封じられる可能性もある。二、世界の強豪も、身長、テクニックという面で侮りがたいものがあり、中国チームにとって、すべてが思う通りにいくとはかぎらない。
かつて、日本の「鬼の大松」といわれた大松博文氏(故人)の特訓を受け、さらに世界の強豪との熾烈をきわめた実戦を経てここまで成長をとげた中国の女子バレーボールチームも、かつての王座をもう一度奪回するには、たいへんな努力が必要であろう。要するに、いったん王座を手にしたチームは、ライバルに徹底的に研究されているので、これは並大抵のことではない。
他の種目に目を向けても、ベテランの引退などで、後を継ぐ若手により多く場数を踏ませ、土壇場でひるむことがないようにするには、ロンドン・オリンピックまであと三年ちょっとという期間は決して十分とはいえない。
特に、08北京オリンピックであれほどの好成績を獲得した中国勢は成績が思わしくないともなれば、本国のファンにも顔が向けられないだろう。もちろん、スポーツはなにも「顔」のためにするものではない、という理屈はわからないではないが、これほど情報化された世の中のこと、異国で苦戦を強いられる映像が飛び込んでくるのは、ファンたちにとっても耐え難いことにちがいない。
ロンドン・オリンピックまであと三年とちょっと、その間にアジア大会、種目別選手権大会が次々と待っている。追われる地位に立つことになった中国スポーツ界にとっても、たいへんなことであろう。国民の期待に背くことのないよう頑張ってもらいたい。そして、メディアにしても、スポーツ・ファンにしても、なるべく平常心を保って、選手たちにプレッシャーとなるような言動を慎み、のびのびとオリンピックのヒノキ舞台でベストを尽くすよう励ましてあげるべきだと思う。
「チャイナネット」 2009年4月8日