林国本
中国の長江以南地区で昔から民間に伝わっていた、「中国版ロミオとジュリエット」の日本初公演が実現した。09年10月3日、鎌倉生涯学習センターホールで公演された「梁祝」物語が大成功であったことを、わざわざ公演のDVDを届けてくれた中国民話劇「梁祝」公演実行委員会代表の古野浩昭氏からうかがった。感動して涙を流している観客もいた、ということである。
この民話劇の鎌倉公演にこぎつけるまでには、いろいろな人生の出会いがあった。私はたまたま北京日本学研究センターの会合に招かれて、そこで当時中国に語学研修のため留学していた日本の元高校教諭、渡辺明次さんと出会った。渡辺さんは中国語の勉強をさらに深める中で、中国の民間伝承「梁山伯と祝英台」のことを知り、それをさらに掘り下げ、中国でもめずらしいといわれるほどの大量の資料を集めて研究をつづけ、論文、著書を発表、上梓してきた。私は渡辺さんの努力と成果に深い感銘を覚え、それを記事にしてより多くの人に知ってもらうことにした。
その後、日本の報道機関に長年勤務していたジャーナリストの古野浩昭さんも、中国の文豪魯迅の故郷の紹興大学に留学し、中国語と中国文化の勉強を続ける合間に「紹興日記」を日本で出版し、その中でも「梁祝」についても詳しく触れていた。これがきっかけで渡辺明次さんとのつながりができ、それが「ムーブメント効果」を起こして、鎌倉公演へとつながっていくのであった。
「梁祝」は中国ではよく知られており、交響曲もあるくらいであるが、日本ではほとんど知られていなかった。それを草の根の日中文化交流のイベントとして育て上げていくことは並大抵のことではなかった。大きな劇団でも、こうした作品をレパートリーに組み入れることは、ある意味では「賭け」とも言ってよい。それに一地方の草の根の人たちがチャレンジするのはたいへんなことである。それをやりとげたことは、神奈川県や鎌倉市の日中友好関係者や自治体の関係者の努力とたまものであろう。
写真を見ても、ちゃんとした衣装を着ていて、民話劇の雰囲気もたっぷりで、大成功であることは問題ない。とにかく、ギャラ・ゼロで、まったくボランティアによる公演であったとのことで、その熱意には深い感銘を覚えるものである。
この公演のことを知った在日中国人関係者は、出来れば中国公演も、と言っているそうだが、もちろんこれは日中文化交流にとっては新しいブレークスルーとなるにちがいないが、かなりの大劇団でさえ基金などの後援で中国公演を行なっている現状のもとでは、草の根の人たちにとっては大きなハードルがあることも確かだ。とくに現在、まだ不確実な国際経済情勢、新しい状況のもとで無駄とみられる予算支出のカットというアゲンストの風が吹く中で、いかにして俳優その他の海外への長期間の移動を支えるかなど課題がたくさんある。
言葉の問題などに至っては、非常に乗り越えやすいものであり、字幕を使いさえすればよい訳で、やはり先立つものは海外公演の資金面のバックアップの問題であろう。こういう面でフォローの風が吹くことを願っている。古野さんは北京滞在中に、中国公演の可能性をさぐっているようであった。
「チャイナネット」 2009年10月29日