林国本
さいきん、北京の「中華世紀壇」で「国際デザイン週間」テーマ展が開催された。これまでも個々の分野の小規模のものは催されていたが、デザインのほとんどの分野のものをトータルに1カ所に集めたものはこれが初めてであろう。建国60周年の成果を基盤とし、改革・開放という外の世界とのリンケージを積み重ねる中で、中国の企業も、数はそれほど多くないとはいえ、資本参加や、M&Aの形で海外に出て行く試みが目につくようになった。
外の世界と接触することになると、カルチュアーの相互学習は避けて通れない。私はマスコミの分野の特派員として東京に6年間長期滞在したことがあるが、土、日によくデパートにショッピングに行ったりする中で、中国製の洋服がイタリア製やフランス製のものの5分の1、ものによっては10分の1の値段で売られているのを見て、不可解に近い気持ちになったのを今でも覚えている。そして、デパートのバーゲンセールとなると、ほとんど中国からの輸入品が山積みにされているのが常であった。私は数千年来、工芸品や手芸品の世界で世界でも屈指のものを作り出してきた中国がなぜ、二流、三流の扱いを受けることに甘んじているのか不可解であった。中国から商談に来ている人たちに「なぜ同じカシミヤのコートなのに、イタリアやフランスのものには十数万円の値段がつき、中国製品は1万円均一のバーゲンセール扱いになるのか」と尋ねたことがある。この分野のビジネスに数十年携わってきたその人たちは、中国の縫製技術の立ち遅れ、ボタンなどの時代遅れのデザイン、糸などの品質が劣ることなどを次々とあげて、ため息をついていた。そして、最後に、要するに、競争がないから、だよ、と言った。つまり、業界でよく使われている「ブランド力」がない、ということだろう。イタリアやフランスのものと同じところに並べられるようになるには、おそらく私の子供の時代にならなければならないだろう。
東京に長期滞在しているときには、第三世界、発展途上国の国民としてのこのような「コンプレックス」を味わいつづけてきた。
しかし、舞台は大転回した。今や中国は外貨保有高では世界一、ドル・ベースのGDPではそのうちに世界で2位になる、ともいわれている。今回のデザイン週間は実にグッド・タイミングと言えよう。勝ってかぶとの緒を締めよ、といわれているが、この辺で中国経済の構造面でのグレードアップに力を入れることをまじめに考えてみてはどうかと思うのである。
中国の乗用車販売台数はうなぎのぼりの勢で伸びているが、しかし、発展途上国にいくらか輸出されているだけで、まだまだ「先進国」の市場に輸出されるには至っていない。「先進諸国」の乗用車メーカーは、欧米にデザイン部門をはりつけて市場のニーズを真剣に調査し、なまの情報を収集して、製品に反映させることに必死になっている。それに比べると、中国の乗用車メーカーは、まだまだ自国に閉じこもったままの発想を固守しているようだ。日用品の世界ではまだまだ、デザイン、機能面ではダサイといわざるをえない。内需を開拓して国内のユーザーに優先的に買ってもらい、国外のバイヤーたちからの注文がどっと舞い込むようにするためには、品質、デザインで勝負しなければならない。
今回のデザイン展には、インダストリアル・デザイン、グラフィック・デザインの勉強をした若者たちがわんさと詰めかけたと聞いている。そして、何回もくりかえし見に行った人もいるらしい。以前、日本の著名なワインのメーカーがユニークなボトルのデザインで売上げを大幅に伸ばした、という話を書物で見たことがあるが、このデザイン展がきっかけとなって、数多くの世界に羽ばたくデザイナーが現れることを願っている。そして、中国製品がバーゲンセールの対象でなくなり、イタリアやフランスの製品と堂々と肩を並べる日が早く来ることを願っている。
「チャイナネット」 2009年11月3日