貧困撲滅は全人類が共に立ち向かうべき課題だ。特に近年の中国は貧困脱却と農村振興を大々的に行い、普遍的恩恵の発展を積極的に進めた結果、2012年以降は7年連続で毎年1000万人の貧困脱却に成功した。中国は人類運命共同体の理念にのっとり、国際的な貧困削減の協力を積極的に進め、世界的な貧困削減に寄与し、自らが行ってきた解決策を世界の貧困削減事業のために提供してきた。
文部科学省と財務省で勤務した経歴を持つ衆議院議員の伊佐進一氏は、長年にわたり地方活性化と科学と教育で国の活性化を図る仕事に取り組み、北京の在中国日本大使館1等書記官在任中は多くの発展途上地域支援プロジェクトに関わった。
中国は20年を絶対貧困の撲滅と小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的完成の目標年に掲げた。その20年が間もなく終わろうとする今、中国は果たしてその目標を達成できるのだろうか。伊佐氏の見解を聞いた。
――初めて中国を訪れたのは何年のことですか。貧困地域を訪れていれば、その印象も教えてください。
伊佐進一 最初に中国を訪れたのは1990年代の後半で、陝西省や新疆ウイグル自治区を回りました。2002年の短期留学中には授業の合間を縫ってはバックパッカーで全土をほぼ回りました。農村や、都市部と比べると貧しい地域にも行き、貧富の差を確かに感じましたが、中国人のたくましさや、貧しくても笑顔を絶やさない点が印象的でした。
ある村を訪ねた時には結婚式に遭遇しました。歌い踊る輪の中に見知らぬ私を招いてくれ、一緒にワイワイと結婚を祝いました。当時の田舎では外国人が珍しかったでしょうが、私のこともよそ者として扱わないその姿に、貧しい中にも人々の生活が良くなっていく希望のようなものを感じました。
――大使館時代にはテクノロジー関連の協力やODA(政府開発援助)のプロジェクトを担当していますが、貧困地域関連ではどのような仕事をしましたか。
伊佐 中国で仕事をした07~10年の3年間では、中国各地の発展の不均衡を確かに目の当たりにしましたが、中国が貧富の差の縮小に取り組んでいる姿も目にしています。さらに中国の貧困緩和に向けた日本の援助に関わることもできました。当時の日本政府は「草の根無償資金協力」の一環として貧困地域に病院や学校を造る活動をしていて、私はその契約や竣工式出席などに関わっています。こうした場所に行くと「わが町にも新しい学校ができた。日本ありがとう」と大歓迎されました。貧しい村の食事はちょっと濃い味付けで素朴な田舎料理でしたが、これがまた白酒によく合い、みんな杯を手に口々に感謝してくれるのです。この宴席は彼らにとって、精いっぱいの思いがこもった料理だったのだと感じ、とても感動させられました。
――中国の貧困緩和策とその効果をどのように感じていますか。
伊佐 国会議員になってからは「日中次世代交流委員会」のメンバーとして重慶を訪問し、貧困緩和問題に関わる人々と交流しましたが、万人単位ですでに貧困脱却を実現したと聞き、非常に驚きました。さらに驚き印象深かったのが、その施策が非常にきめ細やかなことです。一口に貧困と言っても、その原因はそれぞれで、例えば主要産業が農業なのに災害が多く収量が上がらないケースもあれば、学校教育の問題で人々の知識や見識、情報が足らず、生産はしても商売にならないケースもあり、さらに良いものを作っても道路がなくて輸送ができないから商売にならないケースもあり、実にさまざまです。重慶ではこうした原因を一つずつ調べ、一つずつ解決していくという非常にきめ細かい対策を行うことで、驚くべき成果を上げていたのです。
中国は改革開放の初期に「先富論」に基づく政策を取っています。ここで生まれた格差をどのように縮小するかということで、小康社会という発想が出てきました。この施策を私は非常に高く評価しています。
中国は依然として多くの問題を抱えており、格差もありますが、小康社会の全面的完成という目標とその実現のために払ってきた努力で、貧困層が救われるようになってきたのは紛れもない事実だと思います。ですから、大きな目標としての今年中の達成はできると思っています。
――中国の貧困問題解消は、世界にとってどのような意義があると思いますか。
伊佐 小康社会にはいろいろな意味があると思います。中国に格差がなくなり、全体がゆとりある社会になっていけば、近隣国にとってはもちろん良いことに違いはありません。日本にとっても、日本製品を売る市場が拡大することで、より経済協力がしやすくなります。また、ゆとりある社会で教育レベルが上がり良い人材が輩出されれば、人材交流で多くの接点を持つことができます。経済にとどまらず、小康社会の完成は環境保護の改善と向上にも役立つでしょう。環境の改善は隣国の日本にとっても大きなメリットです。
――日本は地方経済の活性化に伴う脱貧困でどのような経験を積んだのでしょうか。
伊佐 中国と違うのは、日本は東京一極集中という点です。過疎地の人口減少と経済の萎縮により、東京との格差が広がり続けているのが、日本のここ20年の課題でした。中国が貧困緩和と小康社会完成に向けて頑張っているように、日本も試行錯誤を繰り返すことで、貴重な経験を積み重ねています。
日本の発展の大きな鍵は人材だと思います。日本は国土が小さく資源も少ないため、人材と科学技術の発展に頼るしかありません。戦後日本は優秀な人材の育成を重視し、チームプレーでの発展を行ってきました。こうした経験は、中国とも共有できると思います。
――貧困撲滅は全人類が共に向き合う挑戦です。今後、中日両国は国際的な貧困撲滅に向けてどのような貢献ができると思いますか。
伊佐 中国は小康社会の全面的完成と貧困撲滅という目標のために努力をしています。今の日本には絶対的貧困に当たる世界の貧困基準以下の人はさほど多くないと思いますが、相対的貧困は依然として社会の大きな問題です。中国には広大な農村があり、7億の貧困人口を抱えていた時代もありました。絶対的貧困層を減らしてきた中国のノウハウは、世界にも生かせると思います。また、日本が相対的貧困を解決する過程で蓄積したノウハウにも同様の価値があると思います。こうした方面においては、日中両国は手を取り合って世界の貧困削減や貧困脱却に力を注ぎ、経験を共有し、知恵を出して、あるいはビッグデータなどを駆使した協力関係を築き、貧困対策に新たなアイデアを出すべきだと思います。いずれにせよ、日中両国は「日中両国のためにウインウインの協力をする」にとどまらず、「世界のためにウインウインの協力をする」が、日中協力の大きなテーマになるべきだと私は考えています。
「人民中国日本語版」2020年12月30日