岸田文雄氏は自民党新総裁として、10月4日の臨時国会で第100代日本首相に選出された。岸田氏は外務大臣に長期就任し、自民党内では温和派とされていることから、その周辺諸国への外交政策は善意をもって期待されていた。ところが就任から2週間もたたないうちに、岸田氏は首相の名義で第二次大戦の14人のA級戦犯が祀られている靖国神社に供物を奉納した。これは明らかに日本と第二次大戦の被害国との関係改善に不利な動きであり、それが岸田氏の「豹変」を意味するかもメディアの注目の的になった。
岸田氏は首相に当選したが、真の試練を後に控えている。自民党総裁選では、国民の支持率が高い河野太郎氏ではなく、派閥の利益を代表する岸田氏が選ばれた。そのため国民には自民党にお灸を据えようとする心理がある。この状況下、岸田内閣の発足当初の支持率が近年としては最低の数値を示した。うち「朝日新聞」の世論調査の支持率は45%のみで、第二次安倍内閣の当初の59%、菅内閣の当初の65%を大きく下回った。
岸田氏が長期政権を実現するためには、今月末の衆院選で自民党を勝利に導かなければならない。ところが現状を見ると、自民党の情勢は楽観できず、多くの議席を失うことが不可避に見える。苦しい選挙情勢を受け、岸田氏にとっては具体的な議席数よりも、衆院選勝利の基準の方が重要になっている。現在の276議席の維持をその基準とするならば、「勝利」は実現不可の任務と言える。しかし単独過半数の233議席をその基準とするならば、岸田氏には43議席の余裕がある。一歩譲って自民党が想定外の大敗を喫したとしても、選挙情勢が期待されている連立与党の公明党の議席数を加えれば、組閣は問題ないはずだ。このような局面でも受け入れられるならば、岸田氏はすでに必勝間違いなしだ。
自民党内で「勝利」の基準をいかに設定するかは、岸田氏の首相としての前途を決める。最終的な解釈権を握るのは、安倍氏などの党内の重鎮だ。そのため岸田氏は少なくとも政権発足当初のみ、前任者の踏襲を強いられた。ゆえに岸田氏の最近の動きの裏に重鎮の影が見えるのもおかしくはない。
岸田氏は靖国神社参拝に本来それほど熱心ではなく、これまで長年に渡り敏感な時期の参拝を控えてきた。首相名義による靖国神社への供物奉納は安倍氏を踏襲したもので、安倍氏の支援を受け首相に就任した菅氏も同じ策を弄した。岸田氏は普段と異なる動きによって、安倍氏に忠誠を誓ったようだ。注目の的になっている福島原発の核汚染水海洋放出の決定も前政権のやり方を踏襲したものだ。自民党内の力学から分析すると、岸田政権が関連問題で示した「政治の慣性」をよく理解することができる。
岸田内閣の周辺外交政策の評価に、より大きな忍耐心が必要なことは間違いない。衆院選後に岸田氏が長期内閣を発足してから初めてそれが形になるからだ。選挙情勢が自民党に有利であれば、岸田氏がゆっくりと基礎を固め、保守的な党内の重鎮に対してより大きな発言権を握るだろう。「宏池会」のハト派の伝統が顕在化するチャンスが生まれる。しかし選挙情勢が不利であれば、党内の重鎮は岸田氏に責任転嫁する。つまり岸田内閣の政策について議論する必要がなくなる。神頼みにせよ悪霊祀りにせよ、現段階の岸田氏が心配しているのは選挙だけだろう。(筆者・李若愚 四川省地域・国別重点研究拠点日本研究センター客員研究員)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2021年10月26日