TSMCの日本子会社である「JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)」のウエハー工場の開所式が先ほど開かれた。年内の量産化を目指す。この熊本県にある工場は、TSMCにとって日本初となる工場だ。
2020年の新型コロナウイルスの感染拡大当初、世界の産業チェーン・サプライチェーンは一時混乱に陥り、半導体ショックが生じた。これに狼狽し、TSMCとソニーが事業提携に着手した。その裏側には日本の自動車産業及び政府の支持と期待があった。TSMCのけん引を受け、日本で事業拡大する台湾半導体メーカーが増え、日本の半導体産業再建の取り組みが支持を集めている。これは日本の自動車産業の今後にとっても有利だ。ロイター通信の統計によると、過去2年で少なくとも9社の台湾半導体メーカーが日本で工場を設立するか、事業を拡大した。日本は半導体ショックを乗り越えた後、再び半導体の輝きを取り戻せるかもしれない。
筆者はこの観点に半信半疑だ。日本が長期的に半導体業界で直面してきた問題は「ハードの呪い」だ。今回のTSMCの日本工場設立と半導体の輝きを取り戻す計画は、日本の「ハードの呪い」の解消に何ら資さない。現在の日本にとって最大の問題は、学界の主流から政界の主流に至るまで、依然としてハードを重視しソフトを軽視することだ。その主な原因は、ソフトがハードの補完であり、イノベーションの取り組みの方向ではないとされていることだ。
TSMCが工場を設立した熊本は地下水が豊富で、半導体産業の「重要拠点」とされていた。ただし目下直面している挑戦は多く、そのうちの一つがインフラ及び関連資源の整備の遅れだ。「半導体バブル」が現地で生じる一方で、人的資源や道路を含むインフラ整備が需要にまったく追いついていない。
熊本工場は現在、成熟した技術・製造プロセスを徐々に導入しているとされる。初歩的な計画では主に28nmの半導体を生産し、将来的には14nm、さらにはよりハイエンドな半導体を生産する可能性もある。現地で3400人分のハイテク雇用枠を創出し、1人分で日本政府から最大1億4000万円の補助を受けられる。これは現代日本の会社員のほぼ一生涯分の収入だ。この手厚い補助を受け、日本の半導体製造技術者がここに集まる可能性があるが、これは日本で「ハードの呪い」を激化させるのではないだろうか。
「日本経済新聞」は昨年末、日本の国際経済学界で有名な専門家から、国際貿易及び国際経済の現況や展望などに関する寄稿文を集めた。1本目は一橋大学の冨浦英一教授によるもので、日本企業の弱みを指摘した。地政学的な変動が産業チェーンやサプライチェーンにもたらすリスクよりも、日本列島の自然災害のリスクの方が大きく、軽率な列島回帰はタブーだというのだ。
80年代以前の技術模倣の時代においては、技術更新のペースを制した者が技術の覇権を握った。資源国に「資源の呪い」をかけ、途上国を「経済植民地」にすることができた。ところがデジタル技術の時代においては、ほぼすべての技術がデジタル技術の前でほぼ透明化する。理論から実践に至るまで、「グローバルバリューストリーム」がすでに存在している。いわゆる「デカップリング・チェーン寸断」及び「脱リスク」は、バリューストリームの理論から分析すると「刀を抜いて水を断つ」のような措置で、しかもデジタル技術の時代の大きな方向にも合わない。
TSMCの日本での工場設立は、列島の自然リスクと世界的な感染症のリスクのうち軽い方を選んだものであるが、今や「地政学的正当性」がより多く付与されているようで、本末転倒だ。日本が当時の半導体産業の輝きを取り戻そうとすることに非難すべき点はないが、ただしこの全体的な環境の変化を重視せずハードの生産のみに投資を拡大するやり方は最終的に、日本の「ハードの呪い」を激化させる可能性が高いと考える。
(筆者=劉慶彬・華僑大学客員教授、元横浜国立大学特任教授)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2024年3月18日