日本の研究開発がイノベーションを生みかつ高度経済発展に貢献した理由は、主に以下の2つである。第一は、研究開発の主体が企業側にあったことである。高度経済成長時代の日本の研究開発費の75%は民間企業によるものであり、政府から民間企業への研究開発支援は2%にも満たなかった。当時はアメリカでも研究開発資金の30%は政府が拠出していたので、1980年代の日本の研究開発費に占める政府の拠出割合は、主要先進工業国の中では最も低かった。第二は、日本の研究開発力向上のために中小企業の貢献も大きかったことである。1970年代の企業の研究開発比率(売上高に占める研究開発費の割合)は全体で1.5%程度であったが、中小企業による研究開発比率も大企業とほぼ変わらないレベルにあった。だから日本には、今でも中小企業が生み出した先端技術が多く存在する。 1980年代以降は大企業がさらに研究開発比率を拡大して現在の研究開発比率は3~4%にまで増大しているが、研究開発に力を入れる中小企業でも2%台を保っている。また日本には中小企業を中心とした「技術サービス業」が発達していることにも注目すべきである。筆者自身も大学で修士論文を作成した時、複雑な実験機器を考案し組み立ててくれるサービス企業に多大な支援を受けたことが記憶にある。
日本の研究開発は過去も現在も常に民間主体であるため、市場の状況に極めて敏感でビジネス的に成功を収める確率が高い。また業界団体を中心に技術や技術者のデータベースが整備されており、これは各研究者の技術評価力を大いにサポートしている。またあまり強調されないことであるが、日本は研究開発の物理的環境が優れていることも重要な視点だ。日本の大学や企業の研究施設は、機器類のメンテナンスがきちんと行われ、清潔に秩序よく保たれているため測定誤差等が起こりにくい。
中国が技術イノベーションを促進し、それを経済成長の動力にしていくためには、日本の経験は参考になると思う。つまりイノベーションの促進のために資金力はもちろん必要だが、それ以外の要因、例えば市場ニーズに対する感度や周辺の技術サービス業の発展など、資金以外の重要な要因が多くあるということである。イノベーションは政府と企業の適切な役割分担により生み出されるのである。(文:松野豊。清華大学・野村総研中国研究センター理事、副センター長。)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2016年3月12日