日本産業館に注がれる民間企業の熱意
こうした大変な人気ぶりの背後には、22社の民間企業、2つの自治体の努力の甲斐が見られる。万博という好機を生かして、中国という巨大な市場に向けて自社の理念やブランドイメージなどをアピールすることに、各社は全力を尽くしている。
中国で醤油の製造や販売を展開するキッコーマンは、すでに醤油文化が存在する中国市場はとても魅力的だと見ている。ところが、いかにして日本醤油と中国醤油の違いをうまく消費者に伝えるのかというのが大きな課題だ。キッコーマンは今回、日本懐石料理の精髄を集めた高級料亭「紫 MURASAKI」を出店し、日本の食文化とはなにか、日本の食文化を支える醤油とはなにか、といった形で中国の消費者に向けてアピールしている。
TOTOやコーラーなどの大手水周りメーカーに比べて、イナックス(INAX)の中国市場進出は遅れている。これまでデベロッパーや設計会社などのプロユーザーを中心に販売を展開してきたが、エンドユーザー内での知名度の低さに悩んでいた。上海万博は、エンドユーザーにアプローチする絶好のチャンスを提供した。イナックスは、「青花流水」という日本の染付け文化を表わす展示をしたほか、「世界一トイレ」と言われる日本産業館のトイレに洋風便器などを提供し、金色の高級便器「レジオ」はさらに注目の的となっている。万博の開幕から1カ月余りで、上海にある同社のショールームを訪れるお客さんは倍増し、万博協賛セール製品の販売も好調で、早くも万博効果が出始めているという。
テルモは3D映像で「医療の進化」として「人にやさしい医療」をアピールし、さらに多くの中国の人たちにテルモを知ってもらおうと努力している。医療機器市場が毎年20%近いスピードで伸び、2011年までの医療改革で中小の開業医や農村部での医療拡充が急速に推進されている中国には、それぞれ形態の異なる大きなビジネスチャンスがあると見るテルモは、これまで中国では生産をメインにしてきたが、今後は医療機器の開発、生産、販売を共に積極的に進めていきたいとしている。
2007年、民営化したばかりの日本郵政に、上海万博日本産業館での出展の話が持ちかけられた。中国でこれから始める事業のPRのため、08年3月に出展を決定。「心の架け橋」をテーマとするアニメーションを通じて、中日両国間の手紙やEMSのやり取りを表現し、現在取り組む中日間の郵便・物流事業のために、ブランド認知度の向上を目指している。
帝人は「生命の星」という地球をイメージするモニュメントを出展したほか、日本産業館のリサイクルできる制服を提供し、共に「人と地球環境に優しい化学技術」の理念をアピール。グローバルマーケティングを推進する中で中国を最重要地域と捉える帝人は、上海万博出展を通じて環境への重視をアピールし、顧客の信頼向上を期待しており、中国でさらに大きな市場を開拓していく考えだという。
秋岡館長は、中国は大きなマーケットで万博に出展する企業にとって非常に大きな魅力だが、社員を励ますいいチャンスでもあると話す。「日本企業は出展するだけでなく、スタッフが万博を見に行くための助けをいろいろする。日本から百人を連れてきている企業もある。中国の工場の人たちは、自分たちの会社は日本の会社であるが、上海万博に出たことにすごく喜び、『がんばるぞ』ととても努力してくれると話す社長さんもいる」。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2010年7月6日