<月餅からみた改革開放深化の側面>
改革開放の深化はすでに始まっているとみるべきでしょう。最近の事例を2つ紹介しましょう。
今年も“月餅腐敗”という言葉がマスコミをにぎわせました。中国には中秋節(今年は9月19日前後)に月餅を食べる習慣がありますが、贈答品として、実用とは無縁の超豪華包装の“天価月餅”(天井価格の月餅)が公費購入されるなど、資源浪費、腐敗の温床として問題視されていました。今年の中秋節には、中央規律委員会の発した“月餅禁令”により、月餅の公費贈答、中秋節における公費飲食・接待が急減したといわれます。悪しき習慣を正す改革が社会に浸透しつつある証左といえるでしょう。因みに、今年の国慶節(10月1日から)にも、“祭日禁止令”が出され、公費による贈答、飲食、観光、高額消費などを厳しく戒めています。
<中国(上海)自由貿易試験区誕生の意義>
“開放により改革を促す(深化させる)”現場が9月29日に成立した中国(上海)自由貿易試験区(以後、上海自貿区)です。上海自貿区は中国の改革開放の“新たな始まり”を象徴するとされています。中国経済の国際化は、2001年のWTO加盟によって加速されてきました。“小香港”と称される上海自貿区の指導で、中国経済の国際化が更なる深化を遂げる可能性は決して小さくないでしょう。上海自貿区では、人民元の資本項目での兌換自由化、金融などサービス業における対外開放の拡大、ゼロ関税措置、通関の利便化などが試行される予定です。「試験区」となっているのは、将来、上海自貿区の経験を全国に拡大(次期候補地:長江デルタ地域、天津、重慶、浙江、山東、厦門(アモイ)、広東など)しようとの含意があると読めます。
現在、世界経済は、FTAに代表される地域経済連携協定の時代に入っています。アジア太平洋地域では、ACFTA、日中韓FTA、RCEP、SCO(上海協力機構)、TPPなどが代表的でしょう。上海自貿区は、いわば、国内FTA特殊地区といってもよいでしょう。しかも、高次元で、ヒト、モノ、サービス、カネの出入りの自由化が試行される予定です。
上海自貿区の拡大発展は、今後、世界の地域経済連携協定の行方にも影響し、世界経済の発展に貢献する可能性を秘めているといえるでしょう。
18期3中全会は、35年来の改革開放の“紅利”(ボーナス・成果)のあり方つき議論し、かつ、今後10年間の改革開放の大計を企てる歴史的大会となるのではないでしょうか。
(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由
1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2013年10月23日