ロシアの軍機がトルコに撃墜された事件は、ロシアの不意を打った。またイスラム国(IS)掃討の統一戦線の形成、ロシアと西側諸国のテロ対策協力による関係改善の未来に影を落とし、シリア問題の政治的な解決の不確定性を高めた。現在注目すべき問題は、本件が誰の利益に合致するかだ。
ロシアの大々的な介入により、イスラム国の攻撃およびシリア問題解決の主導権は、徐々にロシア側に移っていった。これは西側諸国の利益に合致しない。事前に共謀していたかはさておき、米国と一部の西側諸国はこの「突発的事件」がロシアの気勢をそぐことを願っている。ロシアが過激な反応をすれば、「テロ対策」、「シリア(政権)支援」の既定目標が徹底的に乱され、棒に振ることもあるだろう。
ロシアがシリアをカードとし西側との関係改善を図り、制裁の圧力を緩めようとすることは、米国や一部の西側諸国が願わないことだ。ロシア機の撃墜のタイミングは実に興味深く、フランスのオランド大統領とロシアのラブロフ外相のトルコ訪問前に発生した。この訪問が実現していれば、検討中のロシアと西側諸国の対テロ連盟が一定の形になっていただろう。そうなってから「突発的な事件」が発生すれば、責任と圧力はすべて西側が負うことになる。何者かが連盟を台無しにしたことは明らかだ。
ロシアとトルコは事件発生後に批判し合い、テロ対策とシリア問題の複雑極まる情勢を示した。ロシアはトルコがイスラム国から石油を密輸し転売しており、イスラム国を暗に支援していると批判した。トルコは、ロシアが実際に攻撃しているのはシリア反体制派のトルクメン人、トルコの「親族」であると批判した。これによって当初の論争は原点に回帰した。どのような姿勢を作ろうとも、ロシアと西側のテロ対策とシリア問題の原則的な不一致が残されており、基本的な相互信頼が欠けている。