米国は世界で最も先進的な国で、その医療防護体制も世界最高水準とされてきた。世界で最も有名な米ブルームバーグ公衆衛生学部が発表した2019年の世界健康安全指数を見ると、米国は83.5点で世界一、中国は48.2点で51位となっている。ランキングがすべてを物語ることはないが、米国の医療面の優位性は世界から公認されている。ところが今回の感染対策において、米国は異なる一面を示した。多くの人、特に多くの中国人は、米国の医療体制は大したことはないと感じている。このような認識も不思議ではない。情報が異なる文化背景及び価値観の間の硝子板を通過する際に、屈折やさらには反射まで生じることがあるからだ。米国の感染対策は、方針決定から実施に至るまで、自国の政治・文化の制約を受ける。(筆者・張家棟 復旦大学米国研究センター教授)
(一)政治制度の制約。米国は分権でバランスをとる国だ。連邦レベルの行政・立法・司法間の分権のみならず、連邦・州・地方間、政府・社会間もそうだ。さらには行政機関内部でも、連邦と州の間で職能が明確に区分されており、上下の関係が存在しない。大統領には州知事、市長、県知事に直接命令を出す権利がない。しかも米国の職能の区分において、医療及び教育などの事務は主に州が担当している。米国は連邦・州・地方による公衆衛生緊急管理体制を構築しているが、米国疾病予防管理センター(CDC)が主に全国的な疾病観測、全国疾病抑制・予防プランの発表・策定、国際協力の従事などを担当している。具体的な医療資源の多くが、州・地方政府に握られている。そのためトランプ大統領が一部の州に外出禁止令を求めた際に、多くの州が実施を拒否した。トランプ氏が規制緩和と経済活動の再開を要求した際にも、多くの州から抗議・反発を受けた。
(二)経済的な制約。米国の政府と社会の間には契約関係がある。相互間の交流は往々にして、高額の経済的なコストを伴う。そのため連邦政府も州政府も、外出禁止令を出したがらず、軽率に出すことができない。経済がストップすれば失業者が急増し、政府の重い財政負担になる。米国の失業保険金制度によると、州政府は通常26週間分の失業保険金を負担しなければならない。州の失業保険資金が枯渇すれば、連邦政府もしくはその他の州から借りるか、債券を発行できる。これらは利息付で返還しなければならない。過去1カ月に渡る米国の失業データは1967年以降で最悪で、かつ伸び率が最も高かった。4月14日現在、すでに2200万人の米国人が失業登録を行い、失業保険を申請している。ニューヨーク州など比較的豊かな6州であっても、この状況下では10週間分までしか支払えない。別の15州は連邦が規定する最低基準さえ満たせない。そのため多くの州は連邦からの外出禁止令をまったく受け入れようとしていない。連邦政府も「お願い」だけではなく、現金を出す必要がある。トランプ氏は議会に2500億ドルの緊急支援計画を提出している。米国では何をするにしても経済的な計算が必要というわけだ。
(三)文化的な制約。米国人の多くが宗教と信仰を持ち、死に関する認識が中国人と大きく異なっている。米国の感染者はすでに82万6000人、死者は4万5000人以上に達している。米国人はすでに塗炭の苦しみの中にあり、人々が怒り心頭に発していると思う人がいるかもしれないが、実際にはこうだ。政府の感染対策の不足を批判する人がいれば、政府のそれが「過度」であり、市民の自由を損ねていると不満を持つ人も多い。この「米国人は大雑把」という現象は、ある程度は彼らの宗教・信仰によるものと言える。少なくとも18世紀初頭のロックから、自由は西側でいかなる世俗的な法則をも必要としない自然の権利であり、神によって守られている。そのため宗教と信仰は2つの面から、人々の感染対策における態度に影響を及ぼしている。まず、多くの人が生存権を個人の専属的な権利とせず、超自然的な力によって与えられたものとする。これを失っても、超自然的な力によって回収されたものであり、世俗的な法則や個人の意志の支配をまったく受けない。次に、人の自由は自然の権利であり、世俗的な法則によって与えられたものではなく、世俗的な法則から蹂躙されるべきではない。そのため多くの米国人は怖いもの知らずに見え、政府からの規制を受けたがらない。米国の防疫部門、連邦・地方、大統領・州知事がこれに頭を痛めている。
米国だけではなく、多くの国の感染対策の選択の裏側には、多くの意思決定者が支配的ない要素が隠されている。どの国にも難しい事情がある。しかし大国であっても小国であっても、豊かな国でも貧しい国でも、自らの手段により感染症から立ち直る。感染対策は全人類の共通の使命だが、各国には自らの対応方法とモデルがあり、統一的な基準はない。しかし共同の脅威を直面した人類が協力・協調を選ぶか、それとも対抗・摩擦を選ぶかは、人類の共同の未来に非常に大きな影響を及ぼす。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年4月23日