一体どうなっているのだ、これは。何が何だか、私はよほど理解力に欠ける人間なのだろうか、と自問したのでした。そして、「支離滅裂」という言葉が浮かびました。
冒頭から訳の分からないことを書いて申し訳ありません。でも、本当にこう言う以外にない、理解を超えることばかりでした。
何が、と言うと、米国のバイデン大統領の訪日に関わる一連の「動き」と報道を目の当たりにして、です。
「中国への抑止」に終始した3日間
バイデン大統領の訪日前、ある新聞の1面に「日米、中国を『共同抑止』」と大書した見出しが躍りました。そして、バイデン氏の日本到着当日から、翌日の岸田首相との日米首脳会談、インド太平洋経済枠組み(IPEF)発足、さらに、日米首脳に加えオーストラリアから首相に就任したばかりのアルバニージー氏、インドのモディ首相を加えた「クアッド」首脳会議へと、とにかく朝から夜中までこれでもか、これでもかと「中国の脅威」が語られ、全てが中国をどう抑止するのか、どう封じ込めるのか、どう排除するのか、ということに終始した3日間でした。
あるメディアは「戦時の日米首脳会談はアフガニスタンとイラクでの戦争以来、ほぼ20年ぶりである。同じ戦時でも日米を取り巻く環境は大きく変わった。最も異なるのは中国が米国の脅威になったことだ」と書きました。ここで言う「戦時」とはウクライナ情勢を下敷きにしていることは言うまでもありません。前回、「『ウクライナ』からの逆風に抗して」といった文章を書いたのですが、どうやら「ウクライナ情勢」を「追い風」と考える人たちがいるのだと悟らされて、これもまた戸惑うばかりでした。他人の「不幸」を「追い風」として、これをてこにして、さあ中国を抑え込もう、封じ込めよう、排除しようなどと考える人々には、とてもではありませんが人道を語る資格などないと思うからです。しかし、それが現実に目の前で繰り広げられると、冒頭に書いたように、私がよほどの無知{もうまい}蒙昧で物事の理解に欠ける人間なのだろうかと考えこんでしまうのでした。
「力による一方的な現状変更の試み」?!
では、「支離滅裂」とはどういうことかと言えば、IPEFの新設を目の当たりにして、中国を語る際にことごとく「お題目」のようにくっ付いていた「力による一方的な現状変更の試み」というのは、まさにこういうことじゃないの?!と思わせられたからです。
貿易・経済における自由化を進める枠組みとして世界貿易機関(WTO)がありました。2001年に中国が加盟したことはよく知られています。その頃から、いわゆる先進諸国と途上国の利害の調整が容易ではなくなり、目覚ましい経済発展の道を歩む中国が途上国の側に立って意見を言うようになって、米国にとっては物事が思うように進まない「いら立ち」を抱くようになったと言われます。そして全体の合意形成が難しくなり、事実上の機能不全という状況に直面します。そうなると米国は環太平洋経済連携協定(TPP)を立ち上げることに懸命になり、中国のいないところで自由貿易協定を進めようともくろみました。オバマ政権時代のことです。しかしトランプ大統領がTPPからの離脱を決め、一方では、ASEAN諸国に日中韓やオーストラリア、ニュージーランドを加えた「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)が発足ということになりました。そこで、まるで屋上屋を架すように、しかもその実体がどのようなものになるのか必ずしも明確ではないIPEFを新たに作ろうというわけです。はっきりしていることは、とにかく中国を排除した形で「仲間」を組みたいというわけです。まさに「力による一方的な現状変更の試み」という言葉をお返ししなければならない米国の振る舞いではないかと、これまたもう支離滅裂じゃないかと思ったのでした。
IPEFは「①デジタル貿易②サプライチェーン(供給網)③インフラ・脱炭素④税・反汚職の四つの柱でルールを形成する。米国はこうした枠組みをインド太平洋に構築すれば経済面でも中国に対抗する仕組みができるとみる」(日経新聞5月23日)というのですが、一体誰の利益になるのでしょう。特にサプライチェーンはどうすればより安定的に保てるのかです。既存のバリューチェーンと言われるものをより良く機能させるために中国との協力関係を深め、発展させるにはどうすればいいのかを考えるほうがどれほど生産的で効率的か、経済の常識に戻れと言いたくなります。
「経済安保」と社会の「空気」がはらむ危うさ
今回の日米首脳会談に先立って、日本では「経済安全保障推進法」が成立しました。法律の柱は、①半導体などの重要物資を安定的に確保する供給網(サプライチェーン)の強化②サイバー攻撃に備えた基幹インフラ(電気、鉄道など14分野)の事前審査③宇宙や量子などの技術の官民協力④原子力や高度な武器に関する重要な技術の特許非公開の四つです。「日本の産業、技術、情報を外国から守ること」を掲げていますが、要は「中国の脅威に対して米国と足並みをそろえて対抗するため」というわけです。専門家の指摘によれば、米国が2018年から本格化させた産業・経済において中国を排除することを目指した法律が土台となっていて、昨年4月の菅首相(当時)とバイデン大統領による日米共同声明にうたわれた内容の具体化だというのです。土台となった米国の法律とは、ファーウエイ、ZTE、ハイクビジョン、ダーファ・テクノロジー、ハイテラの中国のIT主要5社の排除を明記した「国防権限法889条」はじめ「外国投資リスク審査現代化法」「輸出管理改革法」です。世界市場で中国に後れを取る米国が中国のIT企業を何とか排除しようとした法律と言えます。端的に言えば、こうした米国の動きに歩調を合わせて日本でも「経済安全保障」を掲げて法整備を行うことになったというわけです。
何をどう規制していくのかは政令、省令によるという「曖昧さ」にも吟味が必要ですが、企業や産業社会にとどまらず、シンクタンク、研究者にまで及ぶ暗黙の規制がはらむ根深い問題、なによりも、米国に付き従う形で中国を敵視する社会の「空気」を醸成することの危うさをしっかりと認識することが重要になります。また、中国排除にとどまらず、同時に、日本の産業社会を萎縮させ、ひいては日本の国力の衰退につながるという、米国にとっては二重の意味で「好都合」なものだということも忘れてはならないでしょう。
このように「中国の抑止」「中国の排除」に終始したバイデン大統領の、大統領就任後初の日本訪問は、私たちに実に重い課題を突き付けることになりました。
中国への対抗と敵対心で世界を分断する時代を生きることが私たちにとって本当に幸せなのか、まさしく、いま、私たちは歴史の重要な分かれ道に立っていると言えます。
物事の本質をしっかりと見据え、行くべき道を誤らないようにしなければと深く胸に刻んだのでした。
人民中国インターネット版 2022年5月30日