文=趙小卓・軍事科学院研究員
第19回IISSアジア安全保障会議(シャングリラ会合)が12日、シンガポールで閉幕した。中国と米国の駆け引き、ロシアとウクライナの衝突が続くなか、感染症の影響で2年ぶりに開催されたシャングリラ会合が世界から注目された。
シャングリラ会合はアジア太平洋の安全情勢の「温度計」「風見鶏」とされることが多い。今年その全過程に参加した筆者は、未来のアジア太平洋の安全に関する幾つかの趨勢を読み取れると見ている。
(一)アジア太平洋の安全問題がこれまで以上に注目されているが、これはロシアとウクライナの衝突の発生及びその動向と関連している。冷戦終結から現在まで、アジア太平洋はほぼ唯一の、相対的に安定した地域となっている。アジア太平洋は長年に渡り世界経済発展のエンジンであったが、現在この地域内の問題と食い違いが増加し、深刻化に向かっている。この平和で安定的な情勢を長期的に維持できるかと懸念する人も多い。これは感染状況が依然として深刻な状況下、これほど多くの国及び軍・防衛界関係者が会合への出席に強い積極性を保った理由でもある。
(二)アジア太平洋の安全は現在、2つの理念、2つの道、2つのビジョンの駆け引きに直面している。米国の理念は、同盟を結び、小グループを作り、第3者を念頭に置き、時に安全問題を引き起こすことだ。これによる結果はすでに非常に顕著であり、地域全体に分裂と動乱がもたらされた。アジア太平洋の安全問題は近年大幅に増えており、ほぼすべての問題の裏側に米国の姿が見える。
中国の理念は人類運命共同体と新型国際関係の構築で、仲間は作るが同盟は結ばない。この理念はまた、グローバル安全保障イニシアチブなどの中国のプランに含まれる「新安全観」によって示されている。大国の覇権争いは往々にして戦争をもたらし、深く反省された。ところがこれらの教訓は現在、徐々に忘れ去られている。この状況をこれ以上続けてはならない。我々は「国が強くなれば必ず覇を唱える」による大国の争いが最終的に衝突・戦争、冷戦・熱戦に向かうという二の舞を避けなければならない。これが中国の安全理念が「新」である理由だ。
アジア太平洋の2つの安全理念の駆け引きは、2つの道と2つの異なるビジョンを生む。その結果は当然ながら、地域諸国の共同の選択にかかっている。しかし中国と米国という2大国は、相互関係の処理が地域の安全ビジョン、さらには世界全体の平和と安定に対して極めて重要な影響を生むことを意識するべきだ。この利害関係は今年のシャングリラ会合でも顕著になった。各会議の質問はほぼ中国と米国に関するものだった。
(三)米国の同盟体制の変化。すなわちそのアジア太平洋同盟体制と欧州同盟体制に徐々に融合の趨勢が見られている。今回のシャングリラ会合に出席した欧州諸国の代表団は過去最多となった。過去のシャングリラ会合は主にアジア太平洋に焦点を絞り、欧州に関する議題を設けることは少なかった。欧州から代表団を派遣するのは、主に英国、フランス、ドイツ、EU、NATOだった。しかし今年は欧州諸国が大幅に増加し、発言も増えた。彼らはアジア太平洋問題や国際安全について発言する際に、自ずと欧州の安全理念を持ち込んだ。これは客観的に見ると、米国のアジアと欧州における同盟体制に見られる融合の兆しを反映したのだろう(特にロシアとウクライナの衝突が発生した後の)。
(四)シャングリラ会合はかつて、開放的でバランスの取れたイメージであることが多かったが、今年は明らかな価値観の偏りがあったという印象だ。例えばロシアの代表団は今年出席しなかった。ロシアは以前であれば常連であり、通常は国防副大臣レベルだったが、今年は代表団が出席しなかったばかりか、現場で学者の姿さえ見られなかった。筆者の把握している情報によると、主催者側はロシア代表団を招待しなかったが、ウクライナの代表団が初めて出席し、ウクライナの大統領もリモート演説を行った。
どの国を招待するか、その発言をどのようにセッティングするかは、今年のシャングリラ会合の価値観の偏りを反映する。さらに例を挙げると、今年はミャンマー問題に関する議論があり、ASEANの9カ国が招待されたが、ミャンマーの代表団だけが招待されなかった。これはミャンマーの政局の動乱後、軍が政権を把握したことが嫌がられたためだ。これもシャングリラ会合の主催者の好悪の価値観を反映している。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2022年6月15日