危機対応の遅れは危機管理の甘さと大きく関わっている。まず、トヨタ自動車の危機管理体制に欠陥が存在している。トヨタ自動車の関係者によると、顧客からのクレームを受けていても、技術部門における業務の過度な細分化が弊害となり、責任の所在が分からなくなっている。顧客から出された問題を速やかに解決することができなくなっている。
次に、社内情報が速やかに伝達していないことが挙げられる。警告シグナルが速やかに上層部に伝わらないため、危機を処理すべき時期を逃してしまうのである。トヨタ自動車は計32万人の従業員を擁しており、情報が段階を踏んで上層部に報告されるまで長い時間を要する。また、何らかの原因により、重要な情報の報告がどこかでストップしてしまうこともある。例えば、昨年7月、千葉県内で発生したプリウス玉突き追突事故の後、トヨタ自動車は今年1月にアンチロックブレーキシステム(ABS)の修理を行っているが、佐々木眞一副社長は2月3日、国土交通相に報告を行う時になってようやくこの件を知ったということが、日本メディアの物議をかもしている。
次に、トヨタ自動車は危機を処理する人員に不足していることが挙げられる。トヨタ自動車の内部では、創業一家である豊田家出身の社長を大切にしようとする傾向が強く、豊田章男社長が直接会見に臨むのは相応しくない、と認識されていることが、危機が発生した後も、豊田章男社長自らの会見・説明が遅れた原因である。昨年8月から今年2月まで、誰一人としてトヨタ自動車社長の声を聴いたものはいない。事件発生後、消費者が最も聞きたいと思っているのはトヨタ自動車社長の回答であったはずである。この間、アナリスト達の多くが、「トヨタ自動車には社長に適切な提案ができる参謀的な役割を持った人物がいない」と評している。
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