3月15日、アメリカの議会議員130名が連名による書簡でオバマ政府に対し、中国を為替操作国の指定に加えることを求めた。3月17日には世界銀行も公表報告書の中で、人民元為替レートをより柔軟なものにするよう問題提起した。また、ノーベル賞受賞のクルーグマン教授を始めとする多数のアメリカ・シンクタンクの学者もメディアにおいて、人民元の切り上げ圧力が一段と高まっていることを公に指摘している。中国はいま、難しい選択を迫られていると言える。
しかし、より大局的な視点から考察すると、二つの問いに対する回答が求められていることが分かる。「人民元の切り上げは不安定な経済情勢を解決する抜本的な策となるのか」「人民元の切り上げを求めるアメリカの本当の目的は何か」という問いである。
人民元の切り上げは抜本的な解決とはならない
一つ目の問いに対する答えは至極明確である。人民元の切り上げは経済のアンバランスの状況を抜本的に解決するものではない。
アメリカは、人民元を切り上げれば米中貿易の現状が改善され、アメリカの貿易赤字を縮小できるとともに、世界経済の安定的発展の助けにもなると考えている。しかし、この見解は正確とは言えない。産業の国際的分業や製品競争力等の要因の方が、国際貿易情勢に与える影響として大きいからである。一国の国際貿易における地位と収益は、その国の埋蔵資源の量や技術条件など実体経済面の要素によって決まる。
中国の貿易黒字は国内の安価な人件費と豊富な資源に支えられている。2005年7月の人民元為替体制改革以来、人民元対ドルに名目為替レートは21%近くの上昇を見せ、人民元の実効為替レートも16%上昇している。しかし、昨今の米中貿易状況を見る限り、人民元の切り上げは米中貿易黒字改善への積極的材料とはなっていない。中国は今年3月、月単位での貿易赤字となる可能性があるが、対米貿易では黒字を維持する見通しである。
実は、アメリカ側もこの点は明確に理解している。米中貿易差額の問題を好転させるには、アメリカ側がハイテク製品等の輸出を開放しなくてはならないという認識はあるのである。
この状況は人民元に限ったことではない。ここ三、四十年のドイツと日本も同様であった。ドイツマルクと日本円、ユーロはアメリカドルに対する大幅な価値上昇が見られたが、ドイツと日本は依然として世界における有力な貿易黒字国家に数えられている。