▽ポスト地震市場では控えめな楽観的態度で
地震は悲劇ではあるが、この自然災害は日本がよりよい未来を作り出すための促進剤となる可能性がある。経済学的には、このたびの自然災害は(広い視点でいえば)供給に対する直接的なマイナス影響であり(人材、インフラ、資産に損害を与え、経済活動を停滞させた)、また需要に対する積極的な影響でもある(積極的な影響は時間差効果によって数年にわたり継続する)。GDPに対する影響について言えば、経済の水準とペースとを区別して考えることが必要だ。通常の情況の下では、潜在産出量は低下する(本来あるべき成長ペースと比較すると、当四半期あるいは次の四半期に経済成長ペースは一層低下する)が、その後は経済は急速に成長することになる。
だが菅直人首相の評価に暗示的に示されるように、このたびの地震による影響はGDPが減少するといった単純なことだけにとどまらない。原発の原子炉が破損したことにより短期的な不確定性が増大し、地震による損害が最終的にどれくらいのものになるかがはっきりしなくなった。とはいえわれわれは一連の積極的な事象も目にしており、このたびの事態に対して控えめな楽観的態度を取りうる一連の理由も存在する。
第一に、地震は日本の政局や財政政策に著しい影響を与えることが予想される。地震発生前には政府与党と野党との間に激しい政治的対立があり、予算案や関連法案の成立が滞って、経済低迷のリスクを生み出していた。だが地震はこのような政治的局面を劇的に変化させており、政界は今後しばらく対立を棚上げするとみられる。また今後一定の期間は、内閣再編や国会の解散、総選挙といった重要な政治的事件は起こらないとみられる。衆議院を通過した2011年度予算案は修正なしで国会を通過する可能性が高い。また赤字融資のための債権発行に関する特別法案が早急に可決される見込みだ。こうしたことから、われわれは地震が政治の安定性を強化するとともに、財政政策決定の柔軟性を高めたと考える。
第二に、より拡張的な財政政策と通貨政策との組み合わせがうち出される可能性がある。これはデフレ問題で苦しみ続けてきた日本には早急に必要なことだ。日本は危機的な財政状況にあり、多くの人が拡張的な財政政策の実施は難しいのではないかとの懸念を抱いている。だが日本と日本政府との間には天地の差があり、日本政府には債務問題が存在するが、日本にはない。08年の世界金融危機から先週月曜日(3月21日)まで、日本の中央銀行(日本銀行)は資産負債表の規模を拡大することはほとんど考えてこなかったため、これから日本国債やその他の資産を購入することにより(金融超過準備を融資に充てる)資産負債表を拡大するだけの力を十分に備えている。