林国本
中国は近代化を目指す改革、開放政策の実施により、大変革を遂げた。正直言って私は「仕事人間」のひとりで、自分の仕事そのものの革新にはかなり頭を使ってきたと自負しているが、国全体がこんなに速く発展するとは思っていなかった。中国の近代化は何世代もの努力を必要とすると考えていたので、自分たちの世代も近代化の恩恵を受けることができるとは思っていなかった。せいぜい、孫の世代ぐらいになれば、一応近代化らしき環境ができ上がるのでは、と考え、自分たちはリレー競走で言えば、ファースト・ランナーとして、次の走者にバトンタッチすれば責任をまっとうしたことになると考えていた。ところがどうか、北京オリンピックも開催され、上海万博も開催され、人々のライフスタイル、生活意識にも大きな変化が現れ、生活のリズムがますます速くなっている。
中国におけるモータリゼーションの急速な発展も私の想像を超えるスピードで展開している。高速道路もあちこちに出来ており、マイカーによるドア・ツー・ドアの出退勤、一寸とした旅行はもう日常茶飯事になっている。WTO加盟当時、日本の新聞、雑誌には中国の自動車産業は壊滅的な打撃をこうむるのではないか、と見る人もいたが、私も正直言って、それほどしっかりした戦略眼を持っている人間ではないので、大丈夫なのかな、と懸念したこともなかったわけではない。しかし、いまやクルマの販売台数は世界一になっているし、世界各国の自動車メーカーが中国に進出して、いろいろなクルマをどんどん生産している。北京や上海の夕刊紙などはクルマの広告が何ページもあり、われわれより若い世代のほとんどはマイカー族になっている。私も流行に敏感なタイプの人間なので、かつてはマイカー族になってみようかと思ったこともあるが、なに分寄る年波で反応がにぶっているので、危ないからやめた方がよい、と言われて思いとどまったほどだ。私が長年勤務していたメディアの構内には、かつての「自転車王国」時代の自転車置き場のあったところに、立体式の車庫ができており、最近就職してくる若者はちゃんと自分でクルマを運転して出勤している。わたしたちの若い頃は、職住近接でそういう必要もなかったが、今の若者たちは、遠いマイホームから出勤しているので、そうする以外にないわけだが、これが大都市病のひとつ、交通渋滞の原因のひとつとなっている。交通渋滞の解決のため、シンガポールや東京のやり方を紹介する記事がよく新聞に出るようになった。近代国家にとって、自動車産業はリーディング・インダストリーのひとつであり、その発展は大いに必要であるが、交通渋滞という頭痛のタネを抱え込むことになってしまった。しかし、人間にはこれくらいのことを解決する知恵はあると思っているので、それほど深刻には考えていないが、大気の環境、エネルギー資源ということを考えると、やはり究極的には「都心部」では公共交通システムを主とする時代が来るに違いない。