確かにTPP交渉参加への同意は安倍首相からオバマ大統領への手厚い手みやげとなった。米国がアジア太平洋地域でTPP交渉推進を加速する大きな目的は、自国の「アジア回帰」をスピードアップすることにある。現在TPP交渉には米国の信頼できる同盟国であるオーストラリアだけでなく、シンガポール、ブルネイ、マレーシアといったASEAN主要国も参加しており、その経済規模は世界の30%に達しうる。もし日本が参加すれば、この数字は7ポイント上昇するうえ、米日のGDPがTPP加盟国全体の91%を占めることになる。アジア太平洋に対するオバマ大統領の影響力は著しく増大する。さらにオバマ大統領は、TPPを通じて米国の輸出の余地が11%広がることも期待している。
日本が米国への協力と引き換えに得ることを望んでいるのが、アジア地域における自らの政治的・経済的地位の盤石化であることは間違いない。日本としては米国の経済力、政治力、軍事力の助けを借りて自らの影響力を強化することで中国に対抗し、中国を抑え込み、安全保障上の不安を取り除くことが、最も手っ取り早く、かつ有効な方法なのだ。経済規模で中国に追い抜かれたうえ、釣魚島(日本名・尖閣諸島)の領土係争でぎくしゃくしているため、日本は中国に対して警戒、疑念、不安を強めている。そのうえ国力が日増しに衰えており、「集団的自衛権」を手に入れるだけでも米国との同盟関係に一段と頼らざるをえない。また、米国からの安全保障上の庇護と外交・戦略面の支持も望んでいる。