文=岡崎雄太
中国政府は、首都北京市とこれを取り巻く天津市・河北省地域を一体化した経済発展を進めている。この地域は、21.6万平方キロと日本列島の半分以上の広大な面積を有し、人口は約1.1億人と日本の総人口に匹敵する。
◇汚染源対策の強化
岡崎雄太氏 中国の経済成長のペースが落ちているといっても、世界的に見れば最高速度の成長を維持していることには変わりはない。産業構造の転換には製造業の低汚染型発展の実現が不可欠だ。
日本における硫黄酸化物の排出削減の要因分析の研究によれば、産業構造の変化に伴う削減効果は、工業生産量の増加によってほぼ相殺されており、むしろ、排出削減に大きな効果があったのは、脱硫装置の設置、低硫黄重油や天然ガスへの燃料の転換、省エネルギーであった。
中国では、昨年1月から改正環境保護法が、今年1月から改正大気汚染防止法が施行されている。いずれも既存の法律を大幅に改正し、違反行為に対する罰則が強化された。今後、大きなカギとなるのは法律の運用である。その際にも強調したことだが、環境規制を着実に実施するためには、規制をする側とされる側の体制と人員を確保することが不可欠である。
日本では、発電所や工場に、規制の内容を熟知した上で公害対策設備の管理運用を適切に行う要員を配置するため、大気汚染物質や水質汚染物質を一定以上排出する発電所や工場に対し、従業員の内から、国家試験に合格した公害防止管理者を選任して配置することを義務付けていることが参考になろう。
また、企業による規制遵守を徹底するためには、環境規制を執行する行政官の人員の確保及び能力向上が不可欠である。日本では、自治体毎に環境研究・研修のための機関を設置し、分析試験や法規制の執行に従事する職員の能力向上を図った上で、年間延べ数万件の立ち入り検査、指導を行ってきた。日中両国間には300以上の友好姉妹都市の交流があり、北京市と東京都、天津市と神戸市、河北省と長野県間で環境分野の協力が実施、検討されており、今後の協力の強化を期待したい。さらに、中国の大学などの教育研究機関にも、環境分野の人材を中国各地に供給する役割を果たしてほしい。
また、2市1省で規制水準や経済水準の違いが要因となって地域間で汚染が移転することを防止するために、違反データなどを迅速に共有し、規制を共同で執行していく体制を構築するとともに、地域全体で徴収した財源を経済水準に応じて支出することも検討すべきである。