日中経済協会北京事務所副所長 高見澤学
中日対訳
◆ボアオ・フォーラム開催
ボアオ・アジア・フォーラム(以下「ボアオ・フォーラム」)の2016年の年次総会が3月22~25日に海南省のリゾート地・博鰲(ボアオ)で開催される。今回の年次総会のテーマは「アジアの新しい未来:新しい活力と新しいビジョン」である。
1980年代以降、アジア諸国では急速な経済成長と開放政策が進み、それまで欧米中心であった世界の枠組みに大きな変化が生じ、国際的な社会問題への幅広い対応やアジア諸国の連携の必要性が叫ばれるようになった。ボアオ・フォーラムは、こうしたアジア諸国のニーズに伴い生み出された国際的な枠組みの一つである。
◆アジアの経済連携
今やアジア諸国の国内総生産(GDP)の規模は名目ベースで世界全体の約3割を占め、欧州や北米に匹敵する巨大経済圏として、世界経済に対する影響力を強めている。欧米では北米自由貿易協定(NAFTA)、欧州では欧州連合(EU)といった巨大な地域間の経済連携がすでに存在するが、アジアでは今現在、それらに匹敵する確固とした経済連携は生まれていない。したがって、如何にアジア発の経済システムを構築するかが今回のボアオ・アジア・フォーラム年次総会の重要テーマの1つになるだろう。
確かに、東南アジア諸国連合(ASEAN)があるとはいえ、規模からいえばNAFTAやEUに対抗できるほどの経済規模ではない。やはり、世界第2位と第3位の経済規模を誇る中国と日本が加わらなければ、アジア地域を協力にけん引する経済連携の枠組みとはならないだろう。その意味ではアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)といった枠組みの考え方もあるが、いまだ構想段階でしかなく、欧米に比べ地域内の経済連携は遅れているといわざるを得ない。
◆困難な枠組み作り
現在、中国では「新常態」の下、2020年の小康社会実現に向け経済構造、社会構造の転換が徐々に進みつつある。従来の経済の量的拡大から質的向上への転換を図りつつ、一定の経済規模の拡大を維持しようとするのだから、その舵取りは容易ではない。その一方で、ボアオ・フォーラムに参加している東南アジア、南アジア、中央アジア等の国では、依然として経済の量的拡大を求めているところも少なくない。
中国一国だけでも複雑な経済構造となっていることに加え、アジアは経済・社会の発展段階が異なる国と地域が入り混じる混沌とした経済圏で、また、それぞれの国と地域の思惑もあって、アジアとして統一的な枠組みを作ること自体、相当な困難が予想されるのだ。
このように、アジアは全体としてさまざまな課題を抱えているわけで、アジアの経済連携を模索する会議では、幅広くかつ包括的な議論が必要となる。フォーラム事務局の周文重・事務長によれば、今回のボアオ・フォーラムでは経済・産業の構造転換の促進、地域の経済融合と協力推進、インフラ整備への投資拡大、科学技術イノベーション力の強化などの議題が焦点になるとのことだ。
◆経済理論では説明不可能
中国のこれまでの経済発展や現状をみると、欧米流の経済発展モデル〔第一次産業→第二次産業(軽工業→重化学工業→製造業)→第三次産業と一定の時間をかけて発展していくモデル〕は基本的に当てはまらない。ITなど新たな産業も加わり、すべての発展段階が中国という空間のなかに凝縮された形で同時に存在しているように思えるからだ。
ましてやアジアとなると、中国国内以上に異なる発展段階が域内に存在することになるのは明らかだ。しかも、民族的、文化的、歴史的にも異なるほか、政治体制も相容れない場合が少なからず存在している。そして、こうした社会がそれぞれどこかで何らかの形でつながっているのだから、欧米流の経済理論では説明できなくなる。その点、歴史が比較的浅く、また民族的・文化的にも共通点が多い欧米諸国は、経済連携という点ではまとめやすいのは明らかで、理論としても構築しやすくなる。
◆アジア発の経済システム構築
世界経済が全体的に低迷し、発展にも限界がみえるなか、各国政府や国際機関はさまざまな経済政策を打ち出し、景気回復のための措置を講じている。しかし、思うような結果が出ていないのが現実である。これまでの経済政策は、どちらかといえば財政・金融政策が中心で、マネーを操作することで経済の調整を図ろうとするものである。しかし、長年中国の経済を観察していると、マネーとは別の動きをする経済が存在することに気付かされる。こうした現象は現在の欧米流の経済システムで説明することは難しい。
今後、アジアは世界経済のなかでメインプレイヤーとしての地位を着々と固めていくことだろう。複雑で多種多様な国と地域を如何にまとめ、アジア発の経済システムを構築していくかが、ボアオ・アジア・フォーラムに求められている。中国の李克強総理は24日、ボアオ・アジア・フォーラム2016年年次総会の開幕式で、「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)がアジアで加盟メンバーが最も多く、規模が最も大きい地域貿易枠組みであり、2016年に交渉の完了を目指すべきだ」と指摘した。また、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)、シルクロード基金はアジアの発展途上国の支援、とりわけ相互連結や生産能力協力関連のプロジェクトに重点を置き、地域の人々が融合的発展の成果を共有できるよう努めるべきだ」と述べた。李総理の呼びかけで、人々の期待を現実化するロードマップが明確化しつつある。
(本稿は筆者個人の意見であり、中国網や所属機関を代表するものではありません。)