林国本
中国企業の日本企業に対する合併・買収(M&A)の動きが活発化していることが朝日新聞で伝えられている。
高級衣料メーカーのレナウンが中国山東省の大手繊維メーカーと手を結ぶことになるらしい、という記事が日本の新聞に出ていた。
実を言うと、私が仕事で日本に長期滞在していた頃、書店で当時好調にあったレナウンの成功例をまとめた本を買って読んだことがあり、今日のレナウンの苦境を知って、世の移り変わりというものを痛感した。
レナウンは古いビジネスモデルから脱却できず、競合相手に押しまくられてきたが、ブランド力、品質管理の面では強みを持っている。
山東省の如意科技グループは、独自の紡績技術を基に高級毛織物で強みを持つ半面、ブランド力の面ではイマイチの状況にある。中国は計画経済実施の期間が長かったため、親方五星紅旗という他力本願の人間が多かったせいもあって、企画力をもった人間を育てる面では、たいへん遅れていた。いや、ずばりと言ってしまえば「出る杭は打たれる」ので、みんな悪平等で独創力を発揮しようとしなかったのだと言ってもよい。東南アジアや諸外国、諸地域で大成している華人、華僑を見ても分かるように、中国人にも有能な人はかなりいるのである。市場原理の導入で、いろいろな人材が輩出していることを見ても分かるように、環境さえ整えば、人材はどんどん現れてくるものなのだ。
レナウンとの提携がうまくいけば、両企業にとっては広大な中国の市場で大きく伸びる可能性があり、ウィンウィンの関係を構築していけるのだ。
私の知っている中国のビジネスマンで、ブランド力、企画力ということを本当に知っている人はあまり多くない。とくに内陸部の人はそうだ。実を言うと、私の職業としてきたジャーナリズムの世界でも、ネーミングは違ってもそれに似たものが存在しているのだ。世の中で必要とされる、読者に受けるものを書くこと、これは即ちブランド力である。
今回のM&Aの交渉のプロセスを見ていると、レナウン側は初体験なのか、あまりにもブランド力にこだわりすぎ、広大な市場の可能性を軽く見過ぎているように見える。
私の知人で時々、北京のユニクロのお店で衣料を買い求めている人がいるが、「この店は日本の企業だよ」と私が言うと、ビックリして「てっきり、中国の衣料店だとずっと思い込んでいた」というのだ。ユニクロのすごいところはそこにあると思う。グロバリゼーションの時代に、一企業が生きていくには、その土地の企業になりきる心構えが必要なのだ。
中国でもデザイナー、マーケターがどんどん育っている。海外からの導入も不可欠だが、たとえ失敗してでも、ブランド力、企画力を身につける努力をする時期に来ているような気がする。導入も不可欠だが、自創力はもっと必要なのだ。
日本のマスコミではさらに、中国に日本全体が買われてしまうのではないか、と述べている人がいるが、これこそ、文字どおりの「杞憂」というものである。中国にはそんな愚かなことをする人はいない。年収数万ドルの日本人を養っていく力は中国にはないし、中国には国内でするべきことがたくさんある。中国が必要としているのは、近代化を加速するためのノウハウであり、それを世界各国、各地域から全方位的に導入することである。日本だけが相手ではない。
ある会合で、中国人が日本のかつて官僚であった知名人に「日本は少なくとも、技術面で中国を20年はリードして、中国を金儲けの対象にしようとしているのでは」という質問をしたが、この日本の知名人は「日本政府としては、そういうことを決めたことはない」とキッパリと答えていた。私はこの中国人は日本はほとんど私企業からなる社会であることを知らないから、こういう質問をしたのだと思う。私企業は自社の死活を儲けて開発したものを大切にするのは当然であろう。もちろん、日本にだって、他国との同盟関係上、「防衛問題」にからむ技術については、いろいろタガをはめているが、これはまた別の話である。冷戦思考というものがからんでくると、余計神経質になるのもこの分野の話だ。
レナウンと山東省の企業とのM&Aの話は、これまで行われてきた家電量販店ラオックスのケースとはまた違ったものであるが、これから次々と現れるであろう中日間のM&Aのケースタディーとしていろいろ勉強のタネがあって、深く考えさせられるものがある。私はレナウンは損はしないと見ている。広大な市場で、ブランド力をさらに数倍も伸ばせば、座して衰退を待つより賢明である。中国も経済の発展様式を早く変えていくべきだ。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2010年8月2日