北京林業大学生態法研究センター 楊朝霞・副主任
8月12日に発生した天津爆発事故による人的被害は17日9時までに、死者114人、行方不明者70人以上、負傷者700人以上となった。今世間にはこの重大死亡事故に対する憤りや苛立ちがあふれている。事故発生の責任を問う声も辛らつである。
しかし、それ以上に、多くのひとが心に抱いているのが、今回の爆発事故が重大な環境汚染につながるのではないかという“恐怖心”である。。
「前事を忘れざるは後事の師なり」。爆発事故による今後の不安がぬぐえないのは、過去に起きた類似の爆発事故が深刻な環境問題を引き起こしたことを想起させるからだ。2014年1月1日から現在まで、中国では化学工場での爆発事故が20件以上発生しており、その多くが環境汚染を引き起こしている。
さらに2005年11月には、吉林省の中国石油吉林石化公司の工場で8人が死亡し、70人近くが負傷、数万人の住民が緊急避難するという爆発事故も起きている。当時の事故では爆発による被害だけでなく、アムール川の支流である松花江で深刻な水質汚染が発生した。その結果、ハルビンなどの都市は数日間深刻な「水危機」に見舞われ、被害住民は100万人を超え、さらに被害はロシアにも及んだ。
10年後の天津で、深刻な危険物の爆発事故が再び発生した。人々の不安が高まるのは当然である。どのような危険物が爆発したのか?深刻な環境汚染につながる恐れはないのか?当局の緊急処置は有効に作用したのか?シアン化合物は完全に取り除けるのか?現地の水や土への影響は?汚染された大気が北京やそのさらに遠くまで運ばれることはないのか? しかし実際には天津の爆発事故と吉林省の爆発事故では、爆発した場所や緊急処置などの点で大きく異なっている。
その第一は、立地条件が異なることである。吉林石化公司は高い位置に立地しており、大量のベンゼン汚染物を含んだ消防汚染水が、付近の松花江に流れ込み、深刻な汚染問題を引き起こした。しかし天津港の瑞海公司は平地で面積の広い天津港物流センターに位置している。しかも天津で爆発事故によって大きなくぼみができ、それが汚染水の外部流出を防ぐ役割を果たしている。
第二の理由は緊急処置の違いである。吉林の爆発事故では経験不足から対応が消火活動のみに限られ、環境保護問題が置き去りにされていた。その結果、汚染水が松花江に流れ込み、深刻な汚染問題につながった。これに対し天津の事故では、関連部門がただちに大量の人員と物資を投入し、各方面での汚染防止対策を実施した。化学専門部隊の投入によるシアン化ナトリウムの収集、オキシドールの噴射によるシアン化ナトリウムの毒性の減少、土手による汚染物の拡散防止などである。
したがって今回事故では、松花江の水質汚染事件のような大規模で長期間にわたる環境汚染は起こらないと思われる。
報道によると、シアン化ナトリウムの保管場所は15日に確認されており、それが浸透したとみられる土壌についても特殊部隊によって回収されている。またその収集データからは、同物質の広範囲な流出は認められていない。
これに関連して天津市環境保護局の包景嶺総工程師は16日、「事故現場はすでに鎮火しており、大規模な爆発が再び起きることはない。近隣地区の大気や住民の飲料水が影響を受けることはなく、シアン化ナトリウムの汚染問題も心配する必要がない」と述べた。
また環境保護問題の専門家も「渤海湾上空の空気の流れ(時計回り)や北京と天津との距離(100キロ以上)から考えて、天津の爆発事故の影響が北京の大気に影響することはありえない」と指摘している。 天津市の何樹山副市長は17日、「シアン化ナトリウムの収集処理作業はほぼ完了した。爆心地とその周りの土手部分を含む0.1平方キロと、そこから半径1キロまでの地域では厳格な作業が実施された。周辺の河川の水質や大気の質も基準値の範囲内であった」と説明している。
しかしながら、シアン化ナトリウムは毒性の強い危険化学品である。現段階の処理方法で本当に万全だろうか。化学品の爆発による水や大気への影響についても、まだよくわかっていない部分もある。雨が降った場合に、深刻な汚染問題を引き起こすことがないとはいえない。
今後の対策としては、消防や環境保護などの関係部門が、世界の例を参考にしながら効果的な緊急処理を続けていくことであろう。そうして環境に関するリスクを減らしていくことだ。
それと同時に環境問題に対するモニターを大規模に展開し、国民のだれもが知りたい大気や水の質に関する観測データを、すみやかにかつ正確に発信していくことも必要だ。デマを抑えるには情報を公開することである。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2015年8月20日