慕われる通訳助産師さん
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桜美林大学の孔子学院で勉強中の助産師小林智子さん(写真提供・小林智子) |
横浜市にある産婦人科の病院に、中国語ができる30歳代の助産師さんがいる。小林智子さんである。中国人の妊婦や新生児の世話をするほかに、医師が中国人の患者を問診するとき通訳もする。この病院は横浜市内で外国人が2番目に多い地域にあり、中でも中国人がもっとも多い。この「通訳助産師さん」の名を慕って、多くの中国人の妊婦がやってきている。
小林さんは、もとは千葉県のある病院の産婦人科で働いていた。そこでも多くの中国人の妊婦に接する機会があったが、言葉が通じず、意思疎通ができなかった。面倒なことが起きることさえあった。「女性にとって、出産は、人生の大仕事です。もし知らない土地で子どもを産むとしたら、誰でも心配で、怖いと思うでしょう」。そう考えた彼女は、中国語を学びたいという思いがふくらんだ。
簡単な中国語をいくつか覚えた後で、小林さんは試しに中国人の患者さんと話してみた。言葉は片言だが、彼女の話す中国語が患者さんに通じたと感じたとき、気持ちはすっかり楽になった。
患者さんの笑顔を見て、小林さんはもっと中国語を学ぼうと決心した。そこで病院側が再三、引きとめるのを婉曲に断って、仕事をすっぱり辞め、桜美林大学の孔子学院の中国語コースに入学を申し込んだ。
基本となる拼音(中国語のローマ字表記)からヒアリングの練習まで、小林さんにとってはどれも難しかった。「孔子学院に入る前に少し独学したけれど、ヒアリングと発音はぜんぜんダメでした」と小林さんは言う。
最初のころは、書き取りの練習でいつも聞き取れなかった。とりわけ、人前で答えを間違えるのが恥ずかしかった。放課後に一生懸命復習し、繰り返し練習した。そしてだんだんと人前でも自然に中国語が話せるようになった。長いセンテンスも聞き取れるようになったし、発音も正確になった。「自分の中国語がだんだん進歩していくのを感じて、嬉しかった。基礎がとても重要だと思いました」と彼女は言う。
桜美林大学の孔子学院は、独特な教育方針をとっている。一般の中国語教育のほか、中国の切り紙、古詩の鑑賞、京劇の上演などがある。さらに、さまざまな中国人との交歓会が行われ、孔子学院の学院生の会話とヒアリングの能力が実践で試されるようにしている。こうした多種多様な教育のやり方を通じて、小林さんは授業で学んだものを実用に生かすことができるようになったばかりでなく、中国文化や中国人がもっと好きになった。
「私は中国の人たちの開けっぴろげな性格が好きです。友だちになりさえすればすぐに深い付き合いになるし、その後もずっと付き合っていける。職場でも孔子学院でも、それ以外のところでも、多くの中国の友人と知り合いになりましたが、この人たちとは一生、付き合っていけると思っています。言葉は人と人とを結ぶ一つの手段だと私は思っています。これからも中国語を勉強しつづけて、中国語を使って古くからの友人とも新しい友人とも交流を続けて行きたい」と小林さんは言っている。
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