寄稿 孔子学院は友好の架け橋
工学院大学孔子学院学院長 西園寺一晃
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東京工学院大学孔子学院院長の西園寺一晃氏(写真・于文) |
工学院大学孔子学院は、日本の11番目の孔子学院として2008年5月開設、10月正式に開講した。中国教育部(省)傘下の孔子学院本部と共同で開設し、運営はパートナー大学の北京航空航天大学の協力を得て行っている。航空航天大学からは張海英教授が理事兼副学院長として学院に常駐している。
私は日中共同でこのような学院を開設することは時宜に適っていると思う。冷戦崩壊以後、世界には大きな変化が生まれた。その一つはグローバル化である。情報通信革命とも重なり、世界は狭くなり、国境は低くなった。人、モノ、技術はもちろんのこと、文化、思想なども国や地域を越えて飛び交い、交流するようになった。結果、至る所で異質なものが接触することになる。
異質なものに接する場合、二つの態度がある。一つは、反発拒否し、排斥する態度だ。もう一つは、受け入れ尊重し、共存を目指す態度だ。前者が多くなれば、摩擦が生まれ、紛争が起きる。後者が多くなれば、多文化共生の状況が生まれる。
これからの世界は多文化共生の時代だと思うし、そうでなければならない。どんなに大きく、強い国であろうと、自分の価値観を他国に押し付け、自分の価値観で世界を統一しようなどと考えるべきではないし、そんなことはできもしない。世界は多様多彩であり、どんな国、民族、文化も尊重されるべきである。
多文化共生時代においては、積極的に自国の文化を世界に発信することが重要だ。発信方法は異なっても、すでに米国、ドイツ、フランス、英国、韓国などは積極的に行っている。
別の角度から見れば、これはソフトパワー外交でもある。自国の言語や文化を発信し、世界の人々に自国、自国民、自国の文化を理解してもらう。そして文化というソフトパワーの相互学習、共生で世界の安定と平和をめざす。これは素晴らしいことである。すべての国はこのような自国文化の、世界に向けた発信を行うべきだ。
その意味で、日本は素晴らしい文化があるにもかかわらず、経済力に比べ、ソフトパワー外交がこれまで非常に不足していたと思う。
日中関係はいま微妙な時期にある。かつての「政冷経熱」時代は過ぎ去り、政治関係は正常化した。しかし、これで日中関係は良くなったかといえば、残念ながらそうは言えないのが現状だ。問題は国民感情。特に日本国民の対中国感情は根本的に好転していない。さまざまな要因があるが、一言で言えば、相互理解が足りないということだ。
孔子学院の役割は、両国国民間の理解を促進し、日中関係を磐石なものにする、その一端を担うことである。そのためには具体的な作業が必要だ。先ずはコミュニケーションの道具としての正しい中国語を普及すること。ただわが学院の考え方は、中国語の普及は学院の最重要課題ではない。政治、経済、文化などトータルで正しく、ありのままの中国をより多くの人に理解してもらう、そのためには当然、中国語学習は不可欠という考え方である。因みにわが学院のキャッチフレーズは「まるごと中国と触れ合おう!」である。
日本には11の孔子学院と6つの孔子学堂があるが、それぞれ特徴を持っている。それは母体の性格や周囲の環境、立地条件などによるところが大きい。わが学院は唯一の工学系大学付属の学院として、大学の教育方針に沿った具体的方針を持っている。
工学院大学の教育方針は「グローバルエンジニア」の養成、つまり世界に通用する技術者の養成だ。どの国、どの地域においても、地元住民やエンジニアと協力し、スムーズに目的を達することのできるエンジニア。それには技術だけでなく、その国や地域の実情に通じ、言葉も堪能でなければならない。
工学院大学は、アジア、とくに中国重視の方針を打ち出している。わが学院はまだスタートしたばかりだが、将来は技術中国語に長けた、中国の風俗習慣や国情に通じたエンジニアを養成する一端を担いたい。一方で東京のど真ん中に位置するわが学院は、立地条件を生かして、サラリーマン・OL層、企業を重要なターゲットとしている。日中の経済的相互依存関係が進む中、この面でのニーズはますます高まるだろう。
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工学院大学孔子学院開校一周年の慶祝記念音楽会(写真・賈秋雅) |
孔子学院が基礎を固め、発展するためには、地域との協力関係構築も欠かせない。わが学院の場合は、西新宿地域との協力体制をつくりつつある。
例えば、この地域には都庁があり、多くの企業が密集していて、住宅地もある。さらにこの地域は多民族地域で、多くの外国人が日本人と共に働き、暮らしている。地震などの防災で地域連携ができつつあるが、一旦災害が起きた場合、避難と救助、けが人の医療機関への搬送、必要物資の運搬と配給などの問題が生じる。政府、東京都、新宿区、企業、消防、警察、医療機関、大学などが密接に連携を取り、協力して対策に当たらねばならない。
とくに重要なのは、多民族区民の意思疎通と協力だ。関東大震災時の不幸な教訓に学ばなければならない。この面でわが学院は地域の要請で、災害時には中国の住民と連携を取り、全体の避難計画が円滑に進むよう協力することにしている。中国語通訳の迅速な派遣なども視野に入れている。
今年4月からは「日本語講座」を開設する予定だ。ますます増える在日中国人のための講座で、これから大学に入る人、定住した中国人が呼び寄せた家族、新華僑の子弟などが対象だ。
中国人の中には、せっかく日本で暮らすのに、言葉の壁で友だちもできず、地域にも溶け込めない人がいる。その人たちが日本語を学び、地域コミュニティーに溶け込むことができれば、それは日中相互理解の最前線となる。もちろん日本語だけでなく、日本文化も学んでもらう。
要するに孔子学院は、日中相互理解促進の架け橋になるべきだと思う。そのためには、孔子学院本部、中国側パートナーの大学、在日中国大使館をはじめ、日中のさまざまな団体、組織、個人と協力し合わなければならないと思っている。
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