言葉の上での創造の点を除いても村上春樹は非常に優れた作家であり、彼は日本の作家の優れた風格を吸収しており、その一つは川端康成の「出世(浮世を離れる)」人生であり、もう一つは大江健三郎の「入世(実社会に入る)」人生である。村上は回り道をせず直接的に日本の諸先輩の文豪の処世哲学を全部会得している、と言う事ができる。
村上春樹の作品群をまとめて見てみると、容易にこの意識の進む方向を見て取る事ができる。『ノルウェイの森』を代表作として村上の過去の小説は大変プチブル的で、主人公は現実の社会と衝突する事がほとんどなく、大部分の描写は個人をめぐる情感と無常感により展開されており、典型的な「出世」の態度をとっていると言える。
しかし、1995年になり村上春樹の故郷である神戸で大地震が起きた事のほか、東京ではオウム真理教による地下鉄サリン事件があった。この2つの出来事はいずれも突然起きた事であるが、一挙に村上春樹を変えた。彼の人生に対する態度は「出世」から「入世」に転換し、冷淡に社会問題を避けるものから、かなりの関心を示す、或いは積極的に関わる態度に変わり、連続して社会問題を扱う長篇小説を発表した。『神のこどもたちはみな踊る』は地震について書いており、『アフターダーク』は人間性の悪い面を書いている。
文・毛丹青(在日学者)
(この文は毛丹青の村上春樹に関する多くの文章から精選したものである)
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2010年6月18日