世代が違う読者は、この中から全て同じ多層の意義を読み取るわけではないが、100パーセント自分の好きなように理解できる。この小説をサスペンス、恋愛小説、思想小説として読むこともできる。また人によっては情愛小説として読むことも可能だろう。もしかしたら私たちはこうした角度から、村上春樹が言っている総合小説を試すことができるのかもしれない。
思想という観点からは、地下鉄サリン事件以降のシリーズ作品の延長上からこのつながりと進展を理解でき、手法的には『羊をめぐる冒険』の魔力や超現実的な手法の探求もこの作品にもつながっている。それに2人の主人公の物語が交互に描かれる手法は『海辺のカフカ』でも試みられているし、この作品に最も近い短編集『東京奇談集』では様々な超現実的な描写が試されており、手法を実験的に使っているといっていいだろう。
このように理解すれば、『1Q84』は村上春樹の集大成の作品のようにも思える。
――最近、台湾のバラエティー番組で、台湾の女性の芸能人が『1Q84』 を携えているのを見たが、今の「村上熱」をどう見ているか。
施小煒:翻訳者としてとてもうれしいが、本当に読み込むためには、少しクールになり、自分の頭で考え理解することが必要だと思う。『1Q84』はとても奥深い意味を含んでおり、私は思想小説として読んでいる。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2010年6月21日