この要因は、バイオ遺伝子企業は比較的小規模なので、基礎研究や技術開発までは到達し得ても、その後の何段階もの国家審査に通過し、治験も終え、そして商品化し、さらにマーケティング技術を持つという下流(小売ブランド販売)までを管理する経営資源とノウハウをもっていないという理由です。ですからこの2つの産業を跨いだ企業同士の合併・提携は、医薬品の大手企業からすれば既存の医薬品技術を根底から覆すかもしれない新興の新しいバイオ遺伝子技術を持った「部署・チーム」を手に入れられますし、バイオ遺伝子企業(経営者・株主)からすれば、効率的に資本上のイグジットとなるので、資本提携・M&Aが起こりやすいという状況があります。
バイオベンチャー・ジーンベンチャーが勃興してきた数年前の状況から変わってきて、医薬・バイオ・遺伝子の企業が、産業の枠を跨いで融合し、さらに企業併合を繰り返し加速させながら、業界が著しくかわっている状況なんですね。ひとつの産業の中だけでの業界再編ではなくて、近似した産業同士もくっつきだしているという状況です。
さてさて、中国の医薬・バイオ・遺伝子業界をみてみましょう。
中国では歴史的に医薬品産業(勿論、ここでは西洋医薬を指します。)は世界的に競争力を持つ企業は育っていませんが、今後のいくつかの政策運営によって、中国の製薬企業は世界的な競争において勝ち目がある、大企業が誕生する可能性があるのではないかなぁと僕は思っています。
医薬品業界については国家管理(医薬品許認可)がどの国でも厳格であるので、中国政府が主体的に、ある程度の「締め出し」を国内産業保護目的で発動できるということもありますね。13億人という人口をかかえている中国では国内需要だけで世界的規模の企業に成長させることができますから、中国が1つは、バイオ・遺伝子産業を徹底的に振興させ、その技術を世界トップレベルに押し上げること(または、世界的な業界再編が進まない今のうちに、現段階で海外のバイオ・遺伝子の優秀企業を買収すること)。そしてもう1つは、医薬品業界での「外資企業締め出し」を(需要バランスをみながら)注意深く実施すること。これら2つを上手く10年以内くらいで達成出来れば、世界最高レベルのバイオ・遺伝子技術を有し、さらに製品化・商品化力も高い世界最大手レベルの企業が誕生することになるでしょうね。
世界の巨大な製薬関連の企業に勝てるような中国の「紅船」が世界にむけて出航するときがきたら、世界の有識者が今中国に対して「知財保護不十分」「企業イノベーション不足」を批判している状況が、ガラっと変わりそうな気がします!
(中川幸司 アジア経営戦略研究所上席コンサルティング研究員)
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2011年5月20日