文=コラムニスト・陳言
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数カ月前、大学時代の恩師を同級生らと共に訪ねた。在学中、よく食事を御馳走してくれた先生だったが、50歳を超える年齢になった我々を、あの頃と同じように厚くもてなしてくれた。食事も終わり、時間も遅くなったので、先生はタクシーで帰ることになった。何台もの流しのタクシーが走っていたが先生は手を上げようとせず、屋根の上に「個人タクシー」と書かれた行灯が点灯した空車が来たのを見て、先生はようやく手を上げ、その個人タクシーで帰宅された。
資料写真:個人タクシー
日本はタクシーの台数制限がない国である。タクシーの・ドライバーの中には個人タクシーの事業者も少なくない。私の恩師が個人タクシーだけを選んで乗るのは、「タクシー・ドライバーはきつい仕事だが、中でも個人タクシー事業者の辛さは並大抵ではない」という理由によるものだ。そのため、我々も先生の前では個人タクシーをわざわざ選んで乗るようにしていた。
◇長時間労働、低所得
学生時代、我々師弟はタクシー・ドライバーの取材調査を行なったことがある。地域によっては、1カ月の売上金が30万円ほどで、そこからガソリン代、各種保険代などを引けば、手取りはたった8万円ほどであった。つまり、40歳のサラリーマンの1週間分の給与にも及ばなかったのである。
タクシー・ドライバーという職業は日本では決して楽な仕事ではない。一般的に100万キロメートル走行すると、普通自動車の場合、平均約1.1件の死傷事故に巻き込まれる可能性があると言われるが、タクシーの場合1.7件と、その事故率の高さを物語っている。
「労働時間が長い、収入が低い」それがタクシー・ドライバーのイメージである。そのため、中国の若者がこぞってタクシー・ドライバーになりたがるような現象は、日本ではまったくないといってよい。日本では、40歳以下のタクシー・ドライバーはまれで、たいてい髪に白いものが混じる40歳以上が主体である。60歳以上のドライバーは非常に多く、70歳を超えてなおもタクシー・ドライバーを続けている人も少なくない。
安定した収入を得たいのであれば、固定給制度の法人タクシーの乗務員になるのも一つの方法である。そうすれば固定給が支給されるからだ。だが、一定以上、売上超過した場合は会社と折半しなければならないため、収入は個人タクシー事業者を大きく上回る訳ではない。
◇各種能力を備えたドライバー達