当時緊縮予算方針をとったが、利息がどかどか膨張する。国債保有の金融機関や個人は利得であるが、国民全体からすれば租税先取りと同じである。
1987年わが国の1人当たりGNPは19,642ドル、米国の18,403ドルを抜いて世界3位になった。世界輸出シェア(1985)は米国11%、西独9.5%、日本9.1%と昇り竜であった。
ただし、労働時間も先進国では世界一で年間2,168時間(米国1,924時間、西独1,659時間、仏1,643時間 1987年版労働白書)。8時間労働をベースにすれば独仏よりも年間60日以上多く働いていた。
住宅事情も悪かった。住宅研究の英国教授が来日して、関西の文化住宅を見て、「ウサギ小屋ではなくウサギ穴」と訂正しなければならないと言った。当時、社会資本不足が大問題で、公園・下水道が劣悪だった。
中曽根内閣は第二次臨時行政調査会を駆使して、つまり議会論議ではなく、内閣直轄の委員会が事実上予算編成方針を決定するという方法で、「小さな政府」「ポスト福祉国家」を目標とした。いわゆる新自由主義である。
中曽根首相は当初「増税なき財政再建」を高唱していたが、1986年衆参同時選挙で自民党が圧勝した。1987年、所得・法人税減税とマル優制度の廃止、5兆円の売上税創設をセットとして強行突破を試みた。しかしその年の地方選挙で国民の総スカンを食らって自民党が惨敗。売上税を断念した。(翌年竹下登首相が消費税を導入した。)
危機感の煽動は社会的フラストレーションを招く。情動的緊張が高まって冷静な論議にならない。結論を急ぎ過ぎるのが昔から日本人的欠点だが、これまた思考停止を招く。
当時はバブル経済だった。今は違う。「一体改革」を大声疾呼するだけでは議論が深まらない。自民党だけが財政危機を作ったと言わないとしても最大の責任があるのは間違いない。危機を煽るのではなく、国民の納得性を獲得する心掛けを議会論議や報道に期待する。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2012年2月14日
奥井禮喜氏のプロフィール
有限会社ライフビジョン代表取締役
経営労働評論家
日本労働ペンクラブ会員
OnLineJournalライフビジョン発行人
週刊RO通信発行人
ライフビジョン学会顧問 ユニオンアカデミー事務局
1976年 三菱電機労組中執時代に日本初の人生設計セミナー開催。
1982年 独立し、人と組織の元気を開発するライフビジョン理論で、個人の老後問題から余暇、自由時間、政治、社会を論ずる。
1985年 月刊ライフビジョン(現在のOnLineJournalライフビジョン)創刊。
1993年 『連帯する自我』をキーワードにライフビジョン学会を組織。
2002年 大衆運動の理論的拠点としてのユニオンアカデミー旗上げ。
講演、執筆、コンサルテーション、インターネットを使った「メール通信教育」などでオピニオンを展開し、現在に至る。
高齢・障害者雇用支援機構の「エルダー」にコラム連載中。