この「放牧地」の土地の権限は企業がもっているものの、そこにふらっときて楽しく住んでいる人を黙認し、企業はその住人たちをいつでも追い出すことはできるけれども、これを追い出していない状態をつくります。そうすると、住人たちが勝手に放牧地の中で、いろんな営みをはじめてくれるという状況が散見されます。
この「放牧地」を活用することで、コンテンツ制作企業の立場としては、開発段階の発想の手助けにもなり、また、口コミマーケティングをユーザー自身が自律的におこなうわけですから、研究開発費、広告費ともに減少につながるというメリットを享受できる可能性が高くなります。
以上のように、同人誌マーケットが有する「潜在的人的資源の観点」と、「マネジメント的放牧地の観点」を主要な論拠といたしまして、僕は同人誌マーケットがこれら二つのメカニズムを通じて、文化産業の礎になっていると考えます。ただし、同人誌をひとくくりで表してしまいましたが、この中には、単に慎むべきコンテンツを有している害悪となるものも存在しますので、これはセグメンテーションが必要かと思います。そして、この「良き同人誌セグメント」はこの2つのメカニズムを通じて、より一層にコンテンツ・クリエィティブ産業振興政策の一環として活用すべきであろうかと思っています。
いま、問題なのは、「悪しき同人誌セグメント」と「良き同人誌セグメント」が理論的に分割されず、まとめて「なんだかわからないもの」というレッテルをはられているように思われます。
日本においてもまだまだこれらの手法は確立された産業振興政策となっていませんが、中国においてもこれは同様の状況です。政府部門の影響力が弱いところから出発した日本と、政府部門の影響力が強いところから出発した中国では、同人誌マーケットの発展の軌跡がかなり異なっていますが、どちらも政策的に活用できていない状況は同じようです。
さて、それでは、東京でのいろいろな調査が完了しましたので、今週・来週は上海そして湖南省長沙で、リアルタイムなコンテンツ産業を見てきたいと思います!
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2013年8月26日