人質事件の事態が悪化している。人質の一人である湯川遥菜さんは、過激派組織「イスラム国」によって殺害されたことがほぼ確認されている。もう一人の人質である後藤健二さんの運命は、日本がテロリストの要求を満たし、ヨルダンを説得して死刑囚を釈放させられるかにかかっている。安倍晋三首相は「テロリストに妥協しない」という方針を貫きながらもヨルダンと接触し、「人命第一」と強調している。
多くのメディアは、安倍首相が自ら罠に陥り、矛盾する選択肢を打ち出したと指摘している。人質事件は厄介な問題になり、安倍首相のさまざまな重要政策の試練になり、政権運営の基盤を揺るがす恐れもあるというのだ。
実際には、この分析は間違っている。
安倍首相の発言は、実にしたたかだ。政府の人質救助を望む国内の声に対して、「人命第一」は一時しのぎの発言になる。テロ対策の立場を堅持する国内外の利益集団に対して、「テロリストに妥協しない」という発言は万能の盾になる。安倍首相のもう一つの狙いは、人質開放でもテロ対策でもない可能性がある。
本当に人質を救助しようとするならば、日本にはそのチャンスがあった。湯川さんが昨年8月に拉致された当時、外務省は正確な情報を把握しており、シリアの反体制派武装組織「自由シリア軍」を通じてテロリストと連絡ルートを構築していた。この半年に渡り、日本政府は何もせず、言及を避けてきた。いわゆる「人命第一」は、政治的な辞令に過ぎない。