昨年、「APECブルー」という言葉が市民の間で大きな話題となった。そして今、そのAPECブルーをいかに持続させるかが大きな課題となっている。
1950~60年代の日本の空はスモッグに覆われていた。しかしその後、日本の企業は大気汚染による公害と大きな経済コストに気づき、規制に基づき主体的に排出削減を行った。そして現在では排出情報も一般に公開するようになった。
APECブルーを維持するには、技術だけでなく、制度や企業と政府の関係を変えていく必要がありそうだ。
三角形の形をした煙突
2020年に開催される東京オリンピックの選手村候補地の近くに、その「有明清掃工場」はある。周辺には遠く富士山をも見ることができる高級マンションも立ち並んでいた。同工場が、東京湾に隣接したこの地に建てられたのは1990年代。東京23区内に21ヶ所ある都のゴミ清掃工場のひとつである。
高級マンションのエリアになぜ焼却炉があるゴミ清掃工場が存在しているのだろうか?ゴミを燃やせば大量の有害物質や粉塵が出るはずである。しかし工場ではゴミや排出ガスの臭いは全く感じらない。この記者の疑問に対して、同工場の二階堂久和工場長は笑顔で「東京都のゴミ処理工場から出る気体は空気と同じです。有害物質であるダイオキシンのほとんどありません」と答えてくれた。
日本の企業は排出基準を達成するために絶えず技術革新を続けてきた。有明清掃工場を例にとると、排出に当たっては、塵埃(ちり、ほこり)やダイオキシン、水銀、塩化水素・硫黄酸化物、窒素酸化物の5大有害物を除去し、最終的に水蒸気として空気中に排出することが要求された。さらにそれらの企業には住民に気持ちにも配慮することも求められ、煙突などの形状にも工夫が施された。
「住民の不安を和らげるために、煙突の形を従来の筒型から三角形に変更し、オフィスビルのようなイメージにしました」と二階堂工場長は説明する。さらに煙突から上がる気体は水蒸気であるが、色が白いために煙と誤解されやすい。このため工場は摂氏210度の高温で水蒸気を透明な色に変えているという。