林国本
北京のテレビでは2010年というまさに過ぎ去ろうとしている年を振り返る番組がオンエアされている。この年の取り上げるべきこととして、月面探査ロケット「嫦娥2号」の射ち上げ成功、演算速度が世界最高と言われるスーパーコンピューターの開発、上海万博の開幕と成功裏の閉幕、北京――上海間の時速380キロの高速鉄道の敷設工事の完了とそのための走行テストの成功、水深3000メートル以上の深海有人探査船の実験の成功などが上げられている。
北京も近代化した世界レベルの都市へと変貌しつつあり、最近、同じ仕事仲間とのミーティングなどでよく北京郊外のリゾート地に行っているが、その変化の大きさは、「隔世の感」という言葉以外では表現しようもないほどである。われわれの若い頃はピクニックやハイキングで遊びに行っていた北京の郊外も、今では高速道路、ビル、リゾート地に早変わりし、このスピードで行くとそのうちに北京と天津は東京と横浜のようにつながってしまうのではないだろうか。
一時期、一部の外国は中国にスパコンの技術が流出することに神経をとがらせていたが、私はそのうちに中国は自力で開発するにちがいないと信じていた。しかし、こんなにはやくそれが現実となるとは思っていなかった。
日本のある学者が著わした中国の宇宙開発についての本に、著者が中国の宇宙開発技術者に「なぜ、中国は国際宇宙ステーションの事業に参加しないのか」とたずねたところ、中国の技術者たちはユーモラスに「それはNASAにたずねてみた方がいいのではないか」と答えたそうだ。つまり、大国は中国が宇宙開発の面で前進をとげることを喜んでいないらしいのだ。こういうことは、広い視野で見れば理解できないことではない。別に腹を立てることもないし、腹が立つなら自分で頑張るしかない、ということだ。これが世の常だと思う。考えてみても分かることで、たとえスポーツというゲームの世界でも、戦術上の奥の手を相手チームに読まれたくないし、ひるがえって、私の楽しんでいるジャーナリズムの世界でも、最近は特ダネ、スクープの競争が激しくなっている。ユニークな仕事をするには、ときには「隠し芸」も不可欠なのだ。さいわい、この日本の著者の本は、日本人が書いたものとしては、中国にかなり好意的なものであったので、何回も読んで外から見た中国の宇宙開発を知るよすがになったが・・・。