NHKの今年の大河ドラマ「花燃ゆ」は、制作費が過去最高の歴史連続ドラマで、明治維新前の思想家・吉田松陰の妹を主人公とする。吉田松陰には、渡米に失敗し投獄された時期に詠んだ「身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも留め置かまし大和魂」という句がある。筆者はこの句を耳にするたびに不安になる。これは日本文化に深く根ざす、不合理な傾向を示しているからだ。
「大和魂」とは日本の精神のことだ。吉田松陰より100年早く生まれた日本の国学者・本居宣長には、今でも多くの人が諳んじることのできる「しきしまの大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」という句がある。これは奥深い境地を詠んでいるが、合理的な思考とは何の関連性も持たない。吉田松陰や本居宣長の句を、中国語の「好漢は目の前の損を避ける、駿馬は自分が踏んだ草を食べない」ということわざと比べ、どちらがより合理的であろうか。これ以上明らかなことはない。
安倍晋三首相は、吉田松陰と同郷だ。2012年末の再任後、日本政府のさまざまな政策、安倍首相本人を含む閣僚の言行が、日本の多くの知識人によって「この国は不合理な言論が氾濫する時代に戻ろうとしているのか?」と懸念されている。
1945年以降の一定期間に渡り、日本は軍国主義に関する伝統的思想を強く警戒していた。右派と目される中曽根康弘氏も、戦争の罪と悪を深く認識している。しかしながら2000年以降、小泉純一郎氏は中曽根氏ら古い世代を強制的に退職させ、その後の閣僚はみな戦後世代となった。彼らには、日本の過去の戦争を自ら経験したことによる反省がなく、いずれも世襲の政治家だ。外国人が軍国主義の罪を批判すると、彼らは自分の祖父が罵られたかのように感情的になりがちだ。同じく懸念すべきは、出版不況にあえぐ日本のメディアが売上を伸ばすため、職業道徳を顧みず追従し、さらには煽り立てることさえあることだ。
このような世情を受け、最近日本の掲示板には、「反知性主義」な言論が満ち満ちている。日本で最も影響力を持つ思想家の一人である内田樹氏が編者の『日本の反知性主義』の中で、政治思想家の白井聡氏は、「1980年代以降、新自由主義が西側諸国で蔓延し、ポスト近代社会が徐々に啓蒙主義を放棄し、反知性主義が世界的な現象になった。大和の国粋的な反知性主義が、時代の先を歩んでいる」と指摘した。
1977年生まれの白井氏は2年前、『永続敗戦論――戦後日本の核心』によって名を上げた。先ほど上梓した『反知性主義、その世界的文脈と日本的特徴』は読み応えがある。白井氏によると、小泉純一郎氏は2005年の総選挙で、広告業者を使い世論調査を実施した。その結果、多くの有権者が「経済構造改革を支持し、知能指数が低い」B層の人々であることが分かった。小泉氏の後継者である安倍首相は、いわゆるB層の人々に迎合し、彼らを煽っているが、これには根拠があったわけだ。(筆者:新井一二三 日本人作家、明治大学教授)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2015年5月28日