桜を植える時、節雄氏は一升瓶を手にし、木の周りに日本酒をまいた。節雄氏は重苦しい表情で、眼には涙が溜まっていたが、こぼさぬよう我慢していた。筆者は当時、これは末次氏が生前こよなく愛した酒なのだろうと思った。
誠意が通じたのか、この末次氏の年齢を象徴する39本の桜は、当時すぐに満開となった。北京晩報はその後、筆者の「たくましく育つ桜の木」と題した短文を掲載した。
末次氏が生前選択していた授業「間違い表現分析」が、1993年より「文法ミス分析」に変更された。毎年のテストには、末次氏と39本の桜に関する物語が含まれる。それから筆者は生徒に、物語の主な内容と感想を書かせる。筆者は定年退職するまで、これを続けた。
感動的なことに、多くの生徒が答案を提出する際に、筆者に「この問題は素晴らしい」もしくは「このようなテストは有意義だ」と真剣に話してくれた。ある日本人の生徒は感想の中で、末次氏の精神を称賛した。ある女子は非情に率直に「私は自分の学習、仕事、賃金のことばかりを考えている。末次氏のように、自分の学習や仕事を、国や民族の運命と結びつけたことはなかった」と話してくれた。
一生を中国語教育に捧げてきた教員の筆者は、このような話を耳にし、心が温まり慰められる思いがした。筆者は「道を伝え、業を授け、惑いを解く」という自分の仕事の意義を、より深く理解できるようになった。(筆者:李大忠 中国人民大学教授)
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2017年4月17日