日本の安倍晋三首相はこのほど、平和憲法改正の内容・時期・具体的な進め方などに関する発言・指示を繰り返し、改憲の方針を明らかにした。安倍首相は大胆に自らの政治生命を賭けようとしている。
日本国憲法第96条は憲法改正の手続きについて▽衆院議員の3分の2以上による賛成▽参院議員の3分の2以上による賛成▽国民投票による過半数の賛成――という3つの条件を示している。連立政権を組む自公両党が衆参両院で占める議席数からすると、不測の事態が生じなければ1、2つ目の条件を満たすことができるが、3つ目には大きな不確定要素が存在する。
日本で行われた世論調査によると、国民の大半は憲法9条が戦後日本の平和に大きく寄与したと考えている。国民の過半数が改憲に反対しており、賛成は4割程度。安倍首相にとって、国民投票という関門は越えがたい。注意すべきは、自民党内からも異議が出ていることだ。岸田文雄外相は先ほど「憲法9条を改正しようと思ったことはまったくない。今でもこの考えに変わりはない」と述べた。石破茂前自民党幹事長も安倍首相の改憲案に異議を出した。
改憲の前途が不明瞭であるが、安倍首相は改憲の歩みを止めず、むしろ推進に力を入れている。安倍首相がなりふり構わず大胆な賭けに出ている主因はこうだ。
(一)時間不足。安倍首相は改憲を急いでおり、残された時間が少ないと感じている。来年9月の衆院選まで、国会は安倍首相の改憲案にとって重要な時期となる。この時期を逃せば、来年・再来年には衆参両院の選挙が続き、3分の2の議席数を維持できるかは未知数だ。
(二)自衛隊の「違憲」のレッテルを剥がし、「正常な国」になる。集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、国会で安保法を可決したことで、日本は集団的自衛権を手にした。さらに直接攻撃されず「脅威」が存在するだけでも、他国に武力を行使できるようになった。憲法9条はすでに形骸化している。9条第2項と追加される第3項は相矛盾し辻褄が合わないが、安倍首相はこの措置により憲法で自衛隊の存在を認め、合理性を持たせ、「違憲」というレッテルを剥がすことができる。自身の強軍に向けた軍備に正当性と合法性を持たせ、日本を「正常な国」にするための法的根拠を作ることができる。
(三)自民党立党の党是を実現し、自身のレガシーを残す。改憲は自民党立党の党是と目標だ。自民党の歴代政権はこの目標を実現できなかったが、安倍首相が任期内にこれを実現できれば、重要なレガシーになる。
(四)森友学園の国有地取得問題の影響が広がり、安倍首相のイメージと支持率を大きく損ねている。安倍首相は改憲というホットな話題により人々の目をそらし、苦境から脱しようとしている。
国民の支持を勝ち取り国民投票という関門を突破するため、安倍首相は改憲に向け念入りに手回しをしている。まず若者の改憲への反発が少ないことから、安倍政権は改憲の国民投票の年齢を20歳から18歳に引き下げており、若者から多くの支持を得ようとしている。次に野党・日本維新の会の主張を引き継ぎ、教育無償化を初等教育から高等教育に延長しようとしている。それから「中国脅威論」「半島有事論」を喧伝し、国民に「敵はすぐそこ」というイメージを押し付け、改憲の正当性と必要性を持たせようとしている。
他にも党内の対立を和らげるため、安倍首相は岸田氏や石破氏らを党内の作業部会に招いた。彼らの立場を徹底的に変えることはできないが、その態度を和らげ、党内の認識を最大限に統一できる。
安倍首相のこの賭けには、2つの結果しかありえない。勝てば名を上げ、戦後で最も長寿な日本の首相になる。負ければ名誉を失い、党内の重鎮が裏切り、自ら首相の座につこうとする。どちらの結果になるかについては、今後の経過を見守る必要がある。(筆者:呉正竜元外国駐在大使、環球網コメンテーター)
「中国網日本語版(チャイナネット)」2017年5月24日