英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は1日、コラムニストのポリー・ラッセルの「日本料理はいかに西洋の食を変えたか」と題した記事を掲載した。これによると辻静雄が1980年に米国で出版した「Japanese Cooking: A Simple Art」は今でも、欧米の読者が日本料理を知るための最適のガイドとみなされ、日本料理の名声を高めている。
過去20年で英国に根を張ったすべての外国料理のうち、日本料理の「英国化」は最も予想外のできごとだった。その流れは、アラン・ヤウが英国に日式ラーメン店を開いた1992年に始まっていたのかもしれない。それとも寿司チェーンのMoshi Moshiが開かれた1994年が発端だったのかもしれない。新式のサンドイッチのようにパック済みの寿司がスーパーで売り出された2000年がきっかけだったとも考えられる。
これらのレストランやスーパーは、一部の愛好家だけに知られていた寿司やラーメンを誰もが知る存在に変えることには貢献した。だがこれらの「改良版」の日本食を除き、本当の日本食を食べたことのある英国人は少ない。日本の飲食の悠久の伝統と特色ある調理方法に対する英国人の知識は限られている。辻静雄が著した500ページに及ぶ書「Japanese Cooking: A Simple Art」は、日本料理を知るための最良の入門書となる。
同書は1980年に米国で出版され、「日本料理のシンプルでありながら複雑な芸術の秘密」を「初めて」明らかにしたものとして注目を浴びた。出版から40年近くが経った今も、多くの欧米の読者にとって日本料理を知るための権威あるガイドとみなされている。
作者の辻静雄氏は1933年生まれ。父はパン職人だった。美食作家のポール・レヴィによって「日本を代表する美食家」と称された辻は、フランス文学の学位の持ち主でもある。料理人に転身する前には、日本とフランスで記者を務めていた。1960年、日本に帰った辻は、義父が大阪で開いていた調理師学校を任される。辻の経営の下、調理師学校は何代もの生徒らに、和食とフレンチ、中華の高級調理法を伝授してきた。1983年までに150人の講師をそろえ、1993年に辻静雄が亡くなった時には生徒は4500人を数えた。17校の分校を開設しており、そのうち2校はフランスにある。