文=清水友香 産業翻訳者
外国語を学ぶうちに、その国の文化や風習にも興味が湧いてきた。海外スターに夢中になって、その国の言葉を学びたくなった。そんな経験はありませんか?
翻訳・通訳という視点では、言語と文化は切っても切れない関係であり、文化理解なくしては成り立たないと言えますし、より大きな視点では、近年よく耳にする多文化共生のためには、異文化を理解しようとする姿勢が必要と言えるでしょう。ですが、一種の責務として臨むよりも、自然と湧き出る「面白そう!」「知りたい!」という素直な原動力が、実は最も異国との距離を縮めるのかもれません。
そこで、日本で楽しく中国文化に親しんでいる方々とその活動を「好奇心が導く異文化理解」と題してご紹介していきたいと思います。不定期連載となりますが、読者の皆様からの推薦もお待ちしております。
自作の「鲜肉糯米烧卖」
「菊花酥饼」
初回となる今回は、まずは一例として私自身の体験からご紹介しましょう。中国旅行の楽しみの一つはやはり食べ物ですよね。私も中華料理が大好きで、レストランでいただく点心から、街中で買い食いする煎餅・油条の類まで、自宅でも作れたらいいのになあ……と、思い立ったが吉日!?その頃ちょうど長期滞在していましたので、さっそく現地の料理学校に申し込みました。一般的な内容では物足りず、私が受講したのは職業訓練講座。一定の条件を満たして修了し、筆記・実技試験に合格すると、国家職業資格である「中式面点师」を取得できるという、飲食店の厨房に職を得るための講座です。現在は分かりませんが、当時は外国人も受講可、国家試験も受験可だったのです。
講師のお手本を見る受講生たち
事前準備の指示
受講してまず知ったことは、日本人に馴染みのある餃子や中華まんも含めて、点心づくりに使う小麦粉は「中筋面粉」(中力粉)だということ。中国ではごく普通にスーパーで手に入ります。日本で小麦粉と言えば、ほぼ薄力粉と強力粉の二種類ですから、こんなところにも違いがあるのかと面白く感じました。
また、中国北部では水餃子が日常食ですが、北部出身の受講生は「包饺子」(餃子づくり)が本当に上手。ベテラン講師と同じように鮮やかな手さばきで仕上げていきます。手先は器用なほうだと自負していた私ですが、「鲜肉包」(肉まん)を作る回ではこの有り様。蒸した後にも美しい細かいひだを入れるのは、なるほど職人技なのですね。以来、手作りの肉まんを見かけると、ついひだが気になってしまいます。
先生のお手本
初挑戦の自作
通い詰めて4ヶ月、自宅で本場の点心を味わえるようになりました。小葱と塩を練り込んだ「葱油花卷」、もち米を具材にする「鲜肉糯米烧卖」、焼き菓子の「桃酥饼」や「菊花酥饼」、また、レストランでお目にかかるような「鸳鸯饺」「一品饺」等々。日本に戻って何年も経ち、この資格を自分のためだけに使っていては……と思い始めた矢先、近隣の社会福祉センターからお声がかかりました。地域の高齢者や親子向けに体験講座を開くとのこと。新型コロナウイルス感染症の影響でしばらく延期されていましたが、点心づくりが好奇心の入口となり、より多くの方に中国の食文化、ひいては中国文化のいろいろに関心を持ってもらえるよう願っています。
中国の資格証書
パスポートのような形状で、開くと個人情報や資格の種類が記載されている。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2023年6月21日