米国が生んだ天才スティーブ・ジョブズ氏が他界し、魂を失ってしまったアップルはかつての輝きを取り戻せずにいる。ジョブズ時代を恋しく思うアップルファンは少なくない。今年公開された映画『スティーブ・ジョブズ』は、ジョブズを偲ぶアップルファンの心の埋め合わせになったかもしれない。
この映画を見て、今年上半期にヒットした中国の映画『中国合伙人(American dreams in China) 』を思い浮かべた人もいるのではないだろうか。ネット上では両者を比較する人も見られた。筆者の目に映った両者の根本的な違いは、ジョブズ氏は世界を変えることを夢見てきたのに対して、『中国合伙人』では世界を変えるのではなく、この世界に適合するために自分を変えようとしているという点だ。
両者はともに大きな売り上げを上げたが、両者をいっしょくたに論じることはできない。ジョブズ氏は創意と技術によって世界に類を見ないハイテク製品を開発した。一方の『中国合伙人』では、主人公の成東青(チェン・ドンチン)と王陽(ワン・ヤン)が大金を手にし、札束を投げながらお金の雨を楽しむシーンが描かれた。ジョブズ氏のこうした行為は想像し難い。米国の成功像といえば世界を変えたジョブズ氏であるが、中国では自分を変えたい成東青のような人物像に憧れる人が多数を占めるだろう。なぜこのうような違いがあるのか。深層的な要因は恐らく文化に対する自信の違いだ。文革の失敗と80年代の開国にともない、中国人は西洋の華やかな消費社会を目の当たりにし、とりわけ中国の知識人、文化人は精神的に敗北主義的な情緒に陥り、中華文明自体を疑うようになってしまった。そして多くの中国人、特に知識階級人士は、自分の人生を変えることだけを追い求め、世界を変えるなど自分とは無縁で、そう考えることすら愚かな妄想であると考えるようになった。