広漠なるチベットは「世界の屋根」の名でよく知られている。だが、チベットが地球上で生物多様性が最も完ぺきに保護されているところだと知る人は非常に少ないだろう。先ごろ出版された書籍「チベットに入る――生物多様性と保護事業」で、チベットの生物多様性をめぐる神秘のベールが脱がされた。同書は中米両国の学者が共同で執筆し、英語とチベット語、漢語3種の言語で出版。大量の写真や詳細な記述でチベットの現在の様々な希少動植物の実態を紹介している。
「過去20年、世界に40%の面積も自然保護区に区分できるところがほかにあったろうか。減少し続けている絶滅危惧種の数を好転させるのは容易なことではない。だが、勤勉なチベット人はやり遂げた」。カーター元米大統領は同書序言でチベットの生物多様性保護事業をこう評価している。
1998年、チベットで動植物の保護に指定された地区はわずか1%。そして今は一躍、世界の生態保護で先進の地に。08年には42%の地区が保護、管理されるまでになった。
チベットカモシカ
「初めてチベットに入った時、私はその土地の広大さと美しさに心奪われた」。筆者の1人で米国の鳥類学者、新世代研究所のロバート・フラーミン教授はこう語る。教授がこの土地に初めて足を踏み入れたのは1986年。「私はほかの地では見られない数多くの動物を目にした。例えば、野生のチベットロバ、チベットカモシカなどだ。当時、どれほど興奮したか想像できるだろう」。さらにフラーミン教授は「私が見た状況から言えば、チベットの動植物の種類は86年からずっと安定を維持しており、一部の種の個体数はなんと大幅に増加している」と指摘。
高原の宝物――氷と雪の地域のヤク
70年代、ネパールで生活していた当初、フラーミン教授は野生のヤクはすでに消滅したと考えていた。04年、教授はチベット北部のチャンタン(羌塘)を調査した。そこで同僚と共に数多くの子ヤクを含む180頭の野生ヤクの群れを発見。「当地の林業局の職員によると、以前は20頭の群れしか見つかっていなかったという。この変化はなんと大きなことか。当地の政府が効果ある保護をしているおかげだ」と教授。05年の統計では、野生ヤクの数は9000頭前後。
フラーミン教授は「チベットの各政府が、県の一級政府から自治区に至るまで、生物多様性の保護で極めて大きな役割を発揮しているのは、疑いの余地はない」とその感想を敢えて語る。
チベットの生物多様性の現状について、米国の環境保護組織・新世代研究所々長のダニール・タイラー博士は「今日のチベットは世界で最も成功した自然保護区だ」と強調する。
同書の筆者の1人、チベット自治区林業調査計画研究院の劉務林院長によると、この20余年来、自治区政府はチョモランマやチャンタンなど9カ所に国立自然保護区を設立したほか、地方でも規模の異なる保護区を指定。また「中華人民共和国野生動物保護法」に基づき、野生動物の狩猟や殺戮、売買を禁止する条例を制定したという。
当地の住民や環境保護組織が生態環境保護事業に参与することも同様に重要だ。1989年設立のチョモランマ自然保護区は、世界で初めて監視要員を配置しない重要な保護区として、管理作業はすべて地元住民に依存。94年からは新世代研究所と当地の政府が共同で「パンドバ(潘徳巴)」プロジェクトを推進しているところだ。
「パンドバ」とはチベット語で「村の民生委員」の意味。研修を受けた「パンドバ」を保護区内のすべての村に配置するというものだ。研修内容は基礎医療、菜園の管理、家畜の放牧、生態環境の考え方、豊かさにつながる技術の習得など。このプロジェクトを通して、人びとの生活の質や環境保護意識が向上したことで、動物を捕獲したり殺戮したりして金を稼ぐようなことはなくなった。現在、チベット自治区政府はより多くの保護区でこのプロジェクトを展開しているところだ。
人びとの環境保護意識の向上により、チベットカモシカやオグロヅルなどの希少動物の数は大幅に増えてきた。89年に7万頭だったチベットカモシカは、07年に15万頭まで増加。90年代初めに3000羽しか確認されていないオグロヅルは現在、その数は8000羽に近い。
「現在、ヤルザンボ大峡谷流域を旅すれば、百羽以上のオグロヅルが農地や道端にいるのを見られるが、彼らは少しも人を恐れない」と劉院長は胸を張る。「オグロヅルの繁殖地のチベット北部の沼地では、我々がキャンペーンを行ったことで、牧畜民たちはオグロヅルの巣を壊してはいけないことを分かってくれた」と話す。
「チャイナネット」2009年3月26日