マッキンゼー・アンド・カンパニーのシニアパートナーであるピーター・ウォーカー氏はこのほど、新書『米中融和への道を探る』を上梓し、大反響を呼んだ。米国人のウォーカー氏は十数年に渡り中米の間を行き来しており、自らの経験と深い理解に基づき、歴史文化の角度から米国の中国に対する誤解を分析した。米中の「認識の壁」は乗り越えられないものではなく、米国は中国への理解を試みるべきとの観点を示した。
現在の中米関係は複雑かつ敏感な時期を迎えており、多くの雑音が飛び交っている。米国のタカ派は「トゥキディデスの罠」「文明衝突論」の誇張を繰り返し、中国との全面的な「断絶」を吹聴し、人々の「新たな冷戦」に対する懸念を引き起こしている。この特殊な状況下、ウォーカー氏を始めとする米国社会の理性的な声が、いっそう貴重になっている。
ウォーカー氏の一部の観点は、中国人の自己認識に近い。例えばウォーカー氏は中国人が国の主権と民族の尊厳を重視しているが、これは中国がかつて植民地支配された苦しい経験によるものとした。「歴史文化により、中国は平和的な手段による問題解決に慣れており、軍事面では戦争ではなく自国の利益を守る能力を求める」「中国を米国のように変えるとは幼稚な目標だ」といった観点は、米国人が中国を理解するため有益な参考材料となった。
現在の中米関係の問題は、米国の中国に対する認識のズレだ。中米国交樹立から40年に渡り、両国の経済が深く融合し、二国間貿易額が252倍に増加した。残念ながら、心理的な認識の深まりは、経済貿易関係の発展より大きく遅れた。特に米国の中国に対する認識は、歴史文化及び制度の差により政治的要素の影響を受けやすく、大きな「理解の赤字」が生まれている。これにより米国人は今日も、「中国には高速道路があるのか」といった常識問題を聞くほどだ。
この「理解の赤字」は、中国を理解しようとする意欲の不足によって生まれる。ウォーカー氏が「(米国には)中国を理解しようとする意欲を示す証拠はほとんどない」と指摘した通りだ。米国の一部の政治エリートは時に、中国が遅かれ早かれ西側諸国と同じ、いわゆる「民主主義国家」になると頑なに信じている。そのため中国人が長い歴史の中で形成した考え方、文明の特性を一顧だにしない。この平等な対話を望まない深い心理は、根深い文明優越論に基づくものだ。
この「理解の赤字」は、中国に対する認識構造の乱れによって生まれる。中国の急成長に伴い、米国の政治エリートの中国に対する注目は、経済、テクノロジー、軍事などの面に過度に集中している。ところが「中国の歴史文化及びその行為の原因を理解しようとする努力が非常に少ない」というのだ。米国はなぜ中国を読み解き、理解し、判断することができないのだろうか。これについて、英国人学者のマーティン・ジャック氏は、「中国の歴史文化の全体性と継続性を無視し、中国が栄枯盛衰及び異民族の侵入を経験しながらも数千年に渡り文明を途絶えさせなかった大国であることを忘れている。これが重要な点だ」と指摘している。
この「理解の赤字」には、人為的に設置された「ガラスの壁」がある。ウォーカー氏は著書の中で、調和とウィンウィンを求める中国の理念及び平和的な性質について言及した。ところが米国の一部の保守派は、強くなった中国は必然的に米国、ひいては世界の脅威になるとしている。そのため各国に中国対抗をそそのかし、さらには中国が米国の覇権に取って代わるという「百年マラソン戦略」をでっち上げた。これは米国の一般人の中国に対する認識をミスリードするものだ。
中米は歴史文化、社会制度、発展の道、現実的な国情が異なり、食い違いや誤解が生じるのも避けられない。食い違いを解消する正確な手段は、接触と意思疎通の強化、認識のズレの解消、相互理解の拡大だ。これによって初めて食い違いをコントロールし、誤解を回避できる。交流を妨げ、壁を築いても逆効果だ。
「理解の赤字」を解消する前提は、接触の維持だ。中国が開放的で進歩的で友好的であることは、近づかなければ分からない。多くの外国人が、「来るまでは中国は謎だったが、来てからは魅了された」と話している。ウォーカー氏が「中国のガバナンスモデルは自国の発展に適しており、人々の需要を効果的に満たす」という判断を導き出したのは、15年に渡り毎年5、6回と頻繁に訪中しているからだ。1980年代より、米国の学界には多くの「知中派」と呼ばれる学者が現れた。彼らの多くの現地調査と深い研究により、米国人が中国を深く理解するため多くの扉を開いた。
「理解の赤字」を解消するためには、相互尊重が重要だ。ウォーカー氏は著書の中で、現在の中国の体制と価値観は、中国の歴史・文化・社会の現実に深く根ざしたものであり、尊重しなければならないとしている。70年代の中米関係の「破氷」の歴史は、偏見を捨てて尊重と理性の態度を持てば、米国人は両国の差を客観的に見ることができ、中国への理解もより全面的かつ深くなることを証明している。ウォーカー氏は、中国文化は名誉と尊厳を重んじるため、貿易摩擦などの問題においては「中国文化に対する理解がほんの少しであっても、中国人がこのような圧力に屈することはないことを知るべきだ」とした。
「理解の赤字」を解消するためには、ゼロサム思考を超越しなければならない。ウォーカー氏は著書の中で、中国は調和とウィンウィンを求めるが、米国はゼロサムの駆け引きを尊ぶため、双方の間に理念の大きな差が存在すると指摘した。しかし差は交流の障害になるべきではなく、ましてや対抗の理由になるべきではない。米国の中国問題専門家のオクセンバーグ氏は生前、「中国の台頭は現在の世界で最も重大な政治ニュースだ。米国は真っ向から対立し誤解を生むのではなく、態度を調整しゼロサム思考を乗り越えるべきだ」と指摘した。
ドイツの哲学者のライプニッツもかつて、相互交流によって初めて各自の才能が知恵の灯に火をつけることができると語った。米国の中国に対する「認識の壁」は超越できないものではなく、中米の協力は両国と世界に幸福をもたらす。「変化を試みるよりは理解を試みるべきだ」というウォーカー氏の貴重な忠告に耳を傾けるべきだ。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2019年12月9日