もちろんモルガン・スタンレーは馬鹿でも何でもない。彼らはこれらの契約締結を済ませるとすぐに米国・欧州国に帰り、ゴールドマン・サックスらの大手投資銀行と手を結び、日本経済にとって打撃となる行動を起こすのである。「馬鹿だよ、日本人は」と言ったのは彼らの方なのである。有識者による重要な研究レポートに、「日本の実体経済は表面的には高成長にあるが、その成長速度は株式市場の伸びと比べるとはるかに下回っている。さらに重要なこととして、このような高度成長の背後で、実体経済および各種製造品の純利益が急速に下がっていることである。不動産および金融投機の収入以外、日本の企業の純利益はすでに1970年代を下回っているところも多い」と記載されている。それは、グローバル投資銀行が投資者に不安感と猜疑心を生ませ得る記述であることは間違いない。
その後、ゴールドマン・サックスを筆頭とする投資銀行は、この研究レポートを手に、世界各国にいる日本の株式市場・ファンドの投資者を一つ一つ訪ね、一言このように聞くのである。「日本への投資に不安はありませんか?」と。レポートを読み終えたファンドマネージャーは、「もちろん不安を感じます」と答え、「リスクヘッジにはどのようにしたらいいですか?」と聞く訳である。そこでこれらの投資銀行はリスクヘッジのための商品を提案する。「日経平均株価指数は現在100ポイントですね。もし来月60ポイントに下がれば、私が貴方に40元お支払いします。ポイントが下がれば下がる分だけ支払額も上がり、上限金額は定めません。逆に、もし来月120ポイントに上げれば、貴方が私に20元支払っていただきます。当然ですが、多かれ少なかれリスクはつきものです。そのため、1枚当たり5元を、契約時にお支払いします」と。ファンドマネージャーは、頭でそろばんをはじきながら「保有株のリスクヘッジができる上に、1枚当たり5元が懐に入ってくる。お買い得だ」と結論を下すのである。
最終、日経平均株価指数が上がろうが下がろうが、この2つのリスクはヘッジし合う仕組みになっている。例えば、日経平均株価指数が100ポイントから60ポイントに下がったとすれば、米国投資銀行は日本人から40元を受け取り、米国投資銀行はその40元をファンド会社に支払う仕組みで、投資銀行が損をすることはまったくないようになっている。だが、契約時、米国投資銀行は日本人から手数料10元を受け取っており、ファンド会社には5元を支払っている。米国投資銀行はその差額の5元を儲ける訳である。取引枚数が多ければ多いほど、その金額が膨れていくということになる。