今、北京市は世界的大都市への発展、変化の途上にある。北京市の幹部は現代的な世界的大都市というイメージを描いた言葉や表現をしばしば使っている。確かに北京市は大きく様変わりした。その中で暮らしている私たちも、たえずその変化に伴って自分のアイデンティティの再構築を続けている。
社会学者や文化人類学者の説によると、農耕社会においては人間は一生の中で1つのアイデンティティを構築するだけで事足りるということだが、変化のさなかにある中国においては、何度もアイデンティティの補正あるいは再構築をしなければならない。
時々、古い北京にノスタルジーを感じ続けている人に出会うが、もう古い北京の再現は不可能である。知人でいまだに北京の城や城門を取り壊すべきではなかったという懐古趣味に浸りきっている人もいるが、これは単なるノスタルジーであって、もう現実としては不可能なことであるし、また、現在のモータリゼーションの中で城門などは交通渋滞のネックになるだけである。
また、北京オリンピックのメーンスタジアムとなった「鳥の巣」も、一時はごく少数の人たちの間で「あんな訳のわからない形のものをつくってどうするのだ」という見方もあったが、私は国の経済力が強化された現在においては都市建設やオリンピック施設の建設の面、新しい思考を取り入れてもいいのではないか」との見方を持っていた。今から振り返ってみると、「鳥の巣」は北京のランドマークの1つになり、観光スポットとなっているし、スポーツばかりでなく、その他のビッグイベントの会場となっており、そのうちに建設費用を回収することになりそうに思う。