タイの北部では7月中旬から雨が降り続いており、メコン河をはじめとする河川の水位が上昇し、10月に入ると北部や北東部で大規模な洪水が発生した。丘陵地や山間部にあるダムは貯水率が100%に達したため放水され、中部地域に深刻な洪水被害をもたらし、バンコク北部の大規模工業団地の大部分が浸水した。同工業団地には主要部品の生産工場が多く、世界の自動車産業や電子産業の供給チェーンに大きな影響が出るとみられる。「中華工商時報」が伝えた。
タイは日系企業の海外発展戦略が集中的に行われている国で、今回の洪水によって多くの日系企業の工場が浸水して操業停止に追い込まれた。日本の「読売新聞」の報道によると、日系企業310社が洪水の影響を受け、大部分の企業は操業を停止し、従業員を避難させた。日系企業が集中するアユタヤのバンパイン工業団地では、日系企業約30社の工場が浸水し、ほとんどの工場で1階部分が浸水した。新華社が紹介した日本メディアの報道によると、首都バンコク北部のパトゥムタニ県にあるナワナコン工業団地は17日の午後に水が流れ込み始め、タイ政府は団地内のすべての工場に操業を停止して従業員を避難させるよう要請した。同工業団地はタイ最大の工業団地で、企業約200社が入居しており、うち日系企業が104社に上る。
洪水の被害が深刻なタイ北部には自動車、電気機械、精密機器などを取り扱う日系企業が集中しており、これらはほぼ「全滅」の状態だ。東日本大震災の発生後、日本の自動車製造業は部品供給チェーンが被害を受けたために深刻な打撃を受けたが、このたびのタイの洪水の長期化で自動車製造業はもとより日本の各産業が新たに大きな打撃を受けることは確実だ。
米自動車専門誌「オートモーティブニュース」アジアエリアの編集長は、「タイは日本の自動車メーカーの主要な生産センターであり、特にトヨタとホンダにとって主要な生産センターだ。タイ工場の操業停止により各社は損失を被ることになる。とりわけ海外工場によって日本工場の生産不足を補ってきた企業が損失を被ることになる」と話す。
ロイター社の報道によると、トヨタのタイにある3つの完成車組み立て工場は洪水の被害を直接受けていないが、部品工場が洪水で操業停止となり、部品の供給に支障が出たため、3工場は最近になって操業停止に追い込まれた。トヨタは現在、日本国内で部品を緊急調達する計画を立てている。トヨタの2010年のタイでの生産台数は63万1千台に達し、トヨタの生産台数全体の8.3%を占めた。
ホンダは同じく部品の供給に支障が出たため、今月4日から操業停止に陥っており、工場が浸水したため操業を停止したと発表した。報道によると、操業停止は21日まで続く見込みという。ホンダのタイの生産ラインでは、インドネシアとフィリピンに向けた自動車部品も生産しており、タイ工場の操業停止が長引けば、ホンダの東南アジアにおける生産ラインが深刻な影響を受けることになる。ホンダの生産台数全体に占めるタイの割合は4.7%だ、
またタイ工場の浸水や部品不足の影響を受けて、日産、いすず、三菱などの日系自動車メーカーも相次いでタイ工場の操業停止を発表した。
JPモルガン証券の高橋耕平アナリストの分析によると、タイの水害により生産が1カ月以上中断する可能性があり、トヨタの営業利益は230億円(約2億9800万ドル)の損失、ホンダは110億円の損失、日産は62億5千万円の損失になることが予想されるという。
カメラ大手・ニコンもタイにある一眼レフカメラおよび関連のレンズの生産工場が深刻な被害を受け、一部の工場は1階が浸水したため、今月初めに操業停止を発表した。ニコンは円高を背景として早くから海外で業務を展開しており、タイ進出後は最近の円高によって日本での競争における価格競争力を強めてきた。タイ工場は同社の一眼レフカメラの9割を生産するほか、関連のレンズの6割を生産する。また同社製品の在庫や流通を調整する役割も担っている。ニコンは今回の被害状況について、現在はまだ被害状況がはっきりしない、工場の操業再開がいつになるかは未定だとしている。